柴田克彦/山本直純と小澤征爾
(朝日新書 2017)



Amazon : 山本直純と小澤征爾 (朝日新書)


小学生のころから日曜日の午後にほぼ毎週見ていた「オーケストラがやってきた」(1972〜83)。
治療不能なクラシック・オタク道へと背中を押してくれた呪いの番組です。
矢代秋雄「ピアノ協奏曲」も、武満徹「カトレーン」も、メシアン「世の終わりのための四重奏曲」もこの番組で知りました。
あの快調なオープニングがオリジナル曲ではなく、ヨハン・シュトラウス二世「常動曲」であることも知らずTVの前で口ずさんでいた純真な自分。
大人になって「常動曲」を初めて聴いたとき、「なんで『オーケストラがやってきた』のテーマ曲がこんなところで!?」と混乱したじゃないですか。

 

司会はご存じ山本直純(1932〜2002)・・・、と言いたいけれど最近は知らない人も増えているのかな。
この本「山本直純と小澤征爾」は、戦後の音楽界を牽引した二人の音楽家の友情と交流を描いた一冊。
とはいえ比重は山本直純が8で小澤征爾が2です。
日本を代表する世界的指揮者・小澤征爾、

 その彼が「自分よりも才能は上、まったくかなわない」といってはばからないのが、ほかならぬ山本直純である。(7ページ)

半信半疑で読み始めたのですが読み終わるころにはすっかり「山本直純スゲー!」になっておりました。
TV司会やCMでの露出が多かった直純ですが、作曲家としても超多作。
「大きいことはいいことだ〜(森永エールチョコレートのCM)」、映画「男はつらいよ」シリーズの音楽を筆頭に、
「一年生になったら」「ミュージックフェアのテーマ」「こぶたぬきつねこ」「8時だよ!全員集合のテーマ」「マグマ大使の歌」「怪奇大作戦のテーマ」「3時のあなたのテーマ」「大河ドラマ『武田信玄』」・・・
などなど、枚挙にいとまがありません。

ただ商業ベースの作品が多く、交響曲や協奏曲といった純音楽が少ないことは事実。
それでも昭和の日本にクラシック音楽を普及させた最大の功労者であったことは疑うべくもありません。
私自身「オーケストラがやってきた」がなかったら、今のようにクラシックCDの山に埋もれる生活はしていなかったのではないかと・・・。

そんな山本直純の才能と栄光、意外に不遇だった晩年までをコンパクトにまとめながら、行間から「直純愛」がにじみ出る文章をしたためた著者・柴田克彦の手腕も素晴らしい。
大変読みごたえがありました。

 「オレはその底辺を広げる仕事をするから、お前はヨーロッパに行って頂点を目指せ」 (山本直純がヨーロッパ武者修行に行く小澤征爾にかけた言葉)

「オーケストラがやってきた」のおかげで立派なクラヲタになった私は、その「底辺」のはしくれということになりますね。

(2020.10.31.)


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