垣根涼介/室町無頼
(新潮社 2016)




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室町時代中期、親が死に一人ぼっちの少年・才蔵は奉公先で
荷物運びに使う六尺棒を武器に戦うことを覚え、比叡山僧兵・法妙坊暁信の土倉の用心棒に雇われる。
その土倉を無法者・骨皮道賢の一味が急襲。
道賢は孤軍奮闘する才蔵を面白がり殺さずに捕え、剣の達人・蓮田兵衛に預ける。
道賢と兵衛はそれぞれのやり方でこの国をひっくり返そうとしており、
兵衛のもとで兵法者として成長した才蔵も、いやおうなく乱世の波に飲み込まれてゆく。


第156回直木賞は、恩田陸「蜜蜂と遠雷」が受賞しました。
6回目のノミネートでの受賞だそうで、さすが「六番目の小夜子」でデビューした人だけのことはあります。

今回はたまたま候補作をすべて読んでいました。
「蜜蜂と遠雷」の受賞はまずは文句ないところですが、二作同時受賞でも良かったんじゃないかと思うほど面白かったのが、

 垣根涼介/室町無頼

であります。
主に現代小説を書いている作家さんだからか、表現が時代がかっておらず、時代小説オンチの私でも大丈夫。
シャープでキレの良い文章、速くて小気味よい展開。
応仁の乱前夜というニッチな時代設定にも興味を惹かれます。

つい先日、「応仁の乱 - 戦国時代を生んだ大乱」(中公新書) を読んだのもタイミングが良かったな。
混沌とした世情、数多のいくさびとが泡のように現れては消えてゆき、正直よくわかりませんでしたが、
とにかく何でもありの混乱した時代であったことは納得できました。

天涯孤独の少年・才蔵を拾い上げ、星一徹のように熱く厳しく鍛え上げる蓮田兵衛骨皮道賢は実在の人物。
蓮田兵衛(?〜1462)は応仁の乱に先立ち、大規模な一揆を首謀・指導した人物で、
骨皮道賢(?〜1468)は浪人たちをあつめて組織化、いわゆる「足軽部隊」をはじめて作った人です。
どちらも戦いの中で命を落としましたが、人物像はほとんどわかっておらず、
著者は自由に想像力を巡らせて魅力的なキャラクターを作り上げました。
男たちをつなぐ運命の女・芳王子もエロくて大変魅力的。

あと、意外に感情移入させられるのが、比叡山の僧兵を束ねる法妙坊暁信
道賢たちと対立するいわば体制側ですが、じつは暁信自身も幕府や公家や高僧からさんざん無理無体を言われ、うんざりしています。
上にはへつらい下には威張るその姿からは、中間管理職の悲哀的なオーラが立ち昇り、身につまされます。
才蔵や兵衛はいわば、凡人とは一線を画すスーパーヒーローですもんね。

スケールの大きな、活劇系エンタテイメントの大傑作、一気読み必定です。

(2017.02.04)



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