なぜ、私だったのですか
父・頼房に想像を絶する「試練」を与えられた幼少期。
血気盛んな“傾奇者”として暴れ回る中で、宮本武蔵と邂逅する青年期。
やがて学問、詩歌の魅力に取り憑かれ、水戸藩主となった若き“虎”は
「大日本史」編纂という空前絶後の大事業に乗り出す―。
生き切る、とはこういうことだ。
誰も見たことのない「水戸黄門」伝。
来月は下の娘(高1)のピアノの発表会。
ちなみに上の娘(高3)は受験のため足を(手を?)洗いました。
「ショパンの『別れの曲』でも弾こうかな」
「難しすぎるよ!」
などと家族で話しているとニョウボが、
「『別れの曲』と言えば、面白い話が・・・」
大学生の頃、ニョウボの友人が彼氏から誕生日プレゼントにオルゴールをもらったそうです。
「僕の好きな曲なんだよ」
なんとそれが「別れの曲」!
「あんた、私と別れたいんかい!!」
大喧嘩になったそうです。
・・・結局その二人はめでたく結婚したそうですが。
さて、「天地明察」で人気の冲方丁の新作「光圀伝」。
光圀は「天地明察」でも、凶暴荒くれオヤジとして登場し、強烈な印象を残しました。
TVの「水戸黄門」より、こちらの光圀が真の姿に近いんだとか(晩年に諸国行脚した事実もありません)。
三男であったのに兄を差し置いて水戸徳川家の世子に指名された少年光國。
「なぜ、私なのですか」
屈折し、一時は破天荒な傾奇者となるも、詩歌・学問に道を見出し、良き交友に恵まれ、「大日本史」編纂に尽力。
名君とうたわれたその人生を骨太な筆致で描き切ります。
絢爛華麗かつ威風堂々たる生涯ですが、印象に残るのはむしろ光圀が直面する数々の「出会い」と「別れ」。
宮本武蔵、 愛妻・秦姫、 親友・読耕斉、 歌の師・冷泉為景、 父・頼房、
母・久子、
そして腹心の部下・紋太夫・・・。
戦もチャンバラもほとんどないのに、なんという人死にの多い小説!
読みながら「会うは別れの始まり」という言葉が頭を離れません。
諸行無常なり。
あと特筆すべきは秦姫の侍女・佐近のツンデレぶり。
「天地明察」では算哲の妻となるえんが見事なツンデレを見せてくれましたが、優るとも劣りません。
私も左近に膝枕してもらいたいぞっ!
「天地明察」の主役・算哲も、後半にチョイ役で登場します。
たいへん立派な生涯を送ったお方の、たいへん立派な小説でありますので、
修身の教科書(読んだことないけど)みたいな説教臭さがかすかに匂わないでもないですが、
謹厳実直・硬派一筋・正直一徹・気骨稜稜なワタクシ(←嘘つけ)、こういう質実剛健な話が嫌いではありません。
書院に端座して全巻読破し、背筋が1.5センチほど伸びました。
嘘です。
ホントはベッドに寝っころがって読んで腕が疲れました。 だって重いんだもの。
読み応えのある重量級の歴史小説でした(ホントに重かった・・・)。
(2012.11.16.)