ピエール・ブーレーズ/ル・マルトー・サン・メートル(1955)
(ピエール・ブーレーズ指揮 1965録音)



Amazon.co.jp : ブーレーズ:マルトー・サン・メートル ほか


R.I.P.Pierre Boulez (1925.3.26.〜2016.1.5.)


ピエール・ブーレーズが亡くなりました。享年90歳。
20世紀を代表する偉大な作曲家であり指揮者でした。

元N響バイオリニスト鶴我裕子のエッセイ「バイオリニストは目が赤い」には、指揮者ブーレーズの「凄さ」が、その棒を体験した人ならではの言葉でつづられています。

 自分一人では決して行けなかったような高みにまで登ることになる。 ああ、こういう指揮者を、我々はどんなに待っていることか。
 たとえば、1回しか経験していないブーレーズ。 あのとき、彼のレヴェルの高さについていけない自分を痛感し、「足を引っぱって申し訳ない」と思った。
 目が点になったまま終わった演奏会のあとも、「あの人のお役に立てるほど、うまくなりたい」と切に思った。 恋に似ていた。    (鶴我裕子「バイオリニストは目が赤い」より)


N響の楽員にここまで言わせるとは・・・・・・やはりモノスゴイ指揮者だったんですね。

さていっぽう作曲家としてのブーレーズはかねてから、「難解でわけわからん現代音楽の作曲家」として絶賛されているわけですが、そんなにわけわからんでしょうか?

たとえば代表作「ル・マルトー・サン・メートル」(1955)は、言ってみれば音色の饗宴、響きの万華鏡
静かに長く引き伸ばされるトレモロ、甘美な不協和音、金平糖をちりばめたような打楽器のきらめき、その上を自由に飛翔する歌。
予備知識なくただ聴けば、キラキラした音響に「おっ、キレイ!」となるんじゃないかと。
べつに集中して聴かなくても、庭の鹿威しや雨音や樹のそよぎを聞いてる感覚でボーッとしてると、なかなかに心地良い時間が流れます。

40分にわたる、耳新しい響きの波状攻撃。
「次はどんな不思議な音が聴こえてくるんだろう?」とワクワクしながら聴いていると、いつの間にか終わっています。
「面白くてヘンなものを聴いた!」という満足感に包まれることでしょう。

 全曲
 

この曲は、ルネ・シャールという前衛詩人の詩集「ル・マルトー・サン・メートル(主のない鎚)」にインスピレーションを受けて作られた9曲からなる組曲。
アルト独唱、アルト・フルート、ヴィオラ(これもフランス語では「アルト」)、ギター、木琴、ヴィブラフォン、そして打楽器群というチョー独創的な編成(どうやって決めたんだろ?)。
シャープでありながら夢幻的、自由でありながら幾何学的な音世界。
そういえばタイトルも「丸と3メートル」って、幾何学みたいですよね(←違う)。

なおブーレーズはのちに、この曲をさらに拡大し深化させたような、ソプラノと管弦楽のための1時間を超える大作「プリ・スロン・プリ〜マラルメの肖像」を作曲。
無限の果てを彷徨いつづけるような迷宮的音響は、さらに魔力を増しています。
はまると癖になります、少々ご注意のほど。

 プリ・スロン・プリ から第2曲「マラルメによる即興曲T」
 

(2016.01.11.)



「音楽の感想小屋」へ

「整理戸棚」へ

「更新履歴」へ

HOMEへ