百田尚樹/風の中のマリア
(講談社 2009年)



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<ストーリー>
マリアは、オオスズメバチのワーカー(働きバチ)
自分自身の子を残すことは出来ないけれど、
「偉大なる母」(女王バチ)と、愛する帝国のため
今日も飛翔して獲物を狩る。


「自分は何のために生きているのだろう?」

と考えたことはありませんか?

私は子供のころによく考えました。

 「生まれて、生きて、死ねばいなくなって・・・、
 人間って何のために生きてるんだろうなあ〜?
 でもなんらかの意味はあるはずだよなあ〜」


などと高尚かつ深遠な思索をめぐらせていると

 「またこの子はボーッとして!」

と、親に叱られたりしたもんです。

オッサンになってしまった今は、そんなこと考えませんよ。
仕事を終えてビールをぐびぐび、

 「ぷはー! この一杯のために生きとるんや!」


何の疑問も感じていない今日この頃です。
ふっ・・・我ながらすっかり薄汚れてしまったもんだぜ。



・・・何の話でしたっけ?
そうそう、百田尚樹「風の中のマリア」です。

主人公は羽化して3日目のオオスズメバチのワーカー(働きバチ)マリア
「疾風のマリア」の異名をとる彼女は、
その抜群の戦闘能力を発揮して、毎日狩りに出かけます。

オオスズメバチのワーカーはすべて「偉大なる母」(女王バチ)から生まれたメス
オスは一匹もいません。
寿命は約30日、自分自身の子供を残すことはありません。
彼女たちの使命は「偉大なる母」が生んだ妹たち(幼虫)を養うため、
ひたすら他の昆虫を殺しては「肉団子」にして持ち帰ること。
幼虫たちはやがて羽化して、新しいワーカーとなります。

オオスズメバチの生態が、ものすごく正確に書かれています。
アリと並んで最も完成された社会を営むといわれるハチ。
その一生が極端に擬人化された筆致で、鮮やかに描き出されます。
この擬人化がまた面白いんです。
蜂たちの名前は、マリア、キルステン、ヘンリエッテ、ヨハンナ、アラベラ、ヴァルトラウテ・・・。
わずかに登場するオスの名がフリートムント、ヴェーヴァルト、フローヴァルト。
まるで「ワルキューレ」の世界です。

戦うため・殺すために生まれ、恋も知らず、子供も産めないマリアたち。
「自分は何のために生きているのだろう? なぜ戦うのだろう?」
考えることもあります。
もちろん、幼い妹たちを養うため、帝国を発展させるためと、頭ではわかっているのですが・・・。

やがて寒い季節が近づき、獲物の数が減ってきます。
「帝国」は、代替わりの時期を迎えます。
「偉大なる母」アストリッドは、新女王をこしらえるため、多くの餌を集めるよう命令。
餌が少なければ新女王は生まれないのです。
これまで支えてきた帝国が無に帰してしまいます。
十分な食料を得るため、マリアたちワーカーが最後の闘いに向かった場所とは・・・。


いやー、最高に面白い小説でした!

子供のころファーブル「昆虫記」シートン「動物記」を夢中で読んだのを思い出しました。
命のリレーの尊さ、自然の掟の厳しさ、あと「オスの悲哀」を噛み締めながら、
イッキ読みいたしました。

メス・ターミネイターのような戦闘マシン・ヒロインマリア
彼女は生きる意味を自分なりに理解・納得して、
短い生涯の最後を迎えることができたでしょうか。

百田尚樹さん、以前読んだ「BOX!」も素晴らしかったですが、
この「風の中のマリア」「もう最高!」と叫びだしたくなる大傑作でした!!

(09.6.21.)

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