フィリップ・マクドナルド/ライノクス殺人事件(1930)
フィリップ・マクドナルド/鑢
(やすり)名探偵ゲスリン登場(1924)
(創元推理文庫)

ライノクス殺人事件 鑢―名探偵ゲスリン登場


<ライノクス殺人事件>
中堅商社ライノクス社の社長
フランシス・ザヴィアー・ベネディックが自宅で射殺される。
以前から彼を憎んでいたマーシュという男が犯人と目されるが・・・。

<鑢(やすり)>
大蔵大臣ジョン・フードが、田舎の邸宅で殺害される。
第一次世界大戦の英雄、アントニイ・ゲスリン大佐は
新聞社社長の友人に依頼され、事件の取材におもむく。


先日、大長編「モンテ・クリスト伯」を読み終えました。
二週間以上かかってしまいました。
面白かったけれど、口直しにちょっと軽いものを読みたくなります。

20世紀前半に活躍したイギリスのミステリ作家、フィリップ・マクドナルドは、
よく言えば「幻の作家」「玄人受け」
はっきり言えば「忘れられた過去の作家」?
でも、まさにうってつけの軽さでございまいした。

「ライノクス殺人事件」は、ミステリファンの間で永らく「幻の傑作」といわれていた作品です。
先月、創元推理文庫からめでたく新訳で出版され、手軽に読めるようになりました
(過去の「幻ぶり」については文庫解説に詳しく書かれてます)。

しかし、う、うーん・・・、「幻の傑作」ねえ・・・。
はっきりいってメイントリックは事件が起こった瞬間からもうバレバレ
ある程度ミステリを読んできた人ならすぐに見破れるはず。
でも最初に事件の謎めいた「結末」を明かし、最後に「発端」を持ってくる構成とか、
全体に漂う軽いノリ、後半のコン・ゲーム風味わいなど、
語り口の面白さでスーッと読ませてくれます。
読後感が良いのもグッドです。
バレバレ・トリックも、読者からみれば名探偵になったような優越感を味あわせてくれます。
これもひょっとして作者の計算なのかっ?(←・・・違うと思う)

「鑢(やすり)」のほうは、まずは「鑢」という漢字を覚えたのが収穫かな。
めざせ漢字検定!(←嘘です)
書斎で殴り殺された大蔵大臣、なぜか凶器は巨大な柄つきヤスリ。
絵に描いたような「書斎の死体」「カントリーハウス・マーダー」ものです。
警察は見当違いな人間を追いかけ、カッコイイ素人探偵が事件を解決。
パターンどおりじゃんかー、と思ったら1924年の作品、
むしろこの作品や、ベントリー「トレント最後の事件」(1913)などによって、
こうしたパターンが作り上げられたんだそうです(ベントリーよりはかなり進歩してると思います)

論理的な推理、意外な犯人もなかなかのものですが、
探偵役ゲスリンやその他の登場人物の恋愛模様を絡めていて、楽しいです。
ラストでは3組ものカップルが誕生、めでたしめでたし。
いいですねえ幸せそうで。

古きよきミステリは、どこか牧歌的。
暖炉の前でロッキングチェアに座って、ブランデーなどなめながら読むのがよろしいでしょう。
かくいう私は、ベッドにひっくり返って時々煎茶すすりながら読んだんですけどね。

(08.4.18.)


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