ラロ/チェロ協奏曲
(マット・ハイモヴィッツ:チェロ ジェームズ・レヴァイン指揮 シカゴ交響楽団 1988録音)



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チェロ協奏曲の隠れた傑作!

2023年は、フランスの作曲家エドゥアルド・ラロ(Edouard Lalo, 1823〜92)の生誕200年。

はっきり言って「スペイン交響曲」だけの一発屋扱いされているラロさんですが、この人のチェロ協奏曲、なかなか良いのです。

フランス生まれですが祖父の代まではスペイン人(バスク系)でした。
もともと優れた弦楽器奏者で、生地リールの音楽院ではミュラーにヴァイオリンを、ベートヴェンの指揮で演奏したこともあるバウマンにチェロを習いました。
そしてパリで1855年に仲間と弦楽四重奏団を結成したときはヴィオラを担当したというから、なんでも弾けたんですね。

若いころから作曲もやっていたけどなかなか芽は出ませんでした。
しかし1872年スペインのヴァイオリニスト、サラサーテのために書いたスペイン風のエキゾチックなヴァイオリン協奏曲が好評を博します。
そこでさらにコテコテにスペイン味を盛り込んだ「スペイン交響曲」(1875)を書いたらこれが大成功!
柳の下に二匹目のどじょうがいたわけですね。
53歳でようやく作曲家として認められます。

チェロ協奏曲 ニ短調はその余勢をかって1877年に作曲され、やはりスペイン風の味付けが特徴的。
チェロの低音部の魅力を存分に引き出した響きは弦楽器を知り尽くしたラロならでは、さすがです。

なおこれ以降、音楽界に「スペイン物はいける」という共通認識が広まり、様々な作曲家が「スペイン狂詩曲」「スペイン綺想曲」「スペイン舞曲」などを量産しました。
ビゼー「カルメン」も舞台はスペインです。

 第1楽章 
 (上掲のCDの演奏ではありません)

第1楽章 レント〜アレグロ・マエストーソ 序奏のあるソナタ形式
オーケストラの力強い楽句で幕を開け、独奏チェロがラプソディックなレチタティーヴォを朗々と歌います。
1:48 独奏チェロが第一主題を呈示、逞しく勇ましいメロディで「勇者のテーマ」って感じです。
第二主題は3:44からやはり独奏チェロに優しく歌われます。「愛のテーマ」ですね。
5:13 やさしい歌を断ち切るように金管が咆哮するところから展開部。
5:44 から独奏チェロに歯切れのよいメロディが出ますが、これは序奏部の主題の変形。
6:52 オーケストラに序奏主題がはっきりと再現し、チェロのレチタティーヴォが続きます。
7:46からフルートが第二主題をやさしく奏で、独奏チェロが加わってこれを展開してゆきます。
9:24 第一主題がきっぱりと再現、つづいて10:20から第二主題が再現します。
11:50 序奏主題がやや控えめに登場するところから結尾部。
独奏チェロはラプソディックに奔放に歌い続け、オーケストラもともに盛り上がり、序奏主題で力強く楽章を閉じます。

 第2楽章
 

第2楽章 間奏曲 アンダンティーノ・コン・モート 三部形式
静かな夜を思わせる弦楽器のイントロに続いて独奏チェロが哀愁のメロディを歌います。
チェロの低音の響きをじっくり味わえる線の太い旋律。
2:30 から中間部。 突然陽気なアレグロになりチェロはバスク民族舞曲のようなメロディを歌います。
3:30にふたたびアンダンティーノに戻り、いかめしい雰囲気となります。
5:11からまたもや陽気なアレグロが戻ってきますがそのままスーッと空中に消えるように終わります。

 第3楽章 
 

第3楽章 アンダンテ〜アレグロ・ヴィヴァーチェ  序奏のあるロンド形式
まず独奏チェロが何かを宣言するようなメロディをじっくりと歌います。
管弦楽も加わり速度を速め、1:15 独奏チェロにロンド主題が登場。
1:32からやはり独奏チェロに第一副主題、これは序奏部のメロディの変形です。
1:57 ロンド主題が回帰し、しばらく展開されます。
独奏チェロの高音域の技巧的なパッセージに導かれるように、2:38 オーケストラにリズミックな第二副主題が登場、「祭り」の雰囲気。
3:05からは独奏チェロがこの主題を展開してゆきます。
4:38 ロンド主題が回帰、4:54 第一副主題。
5:53 オーケストラに第二副主題が現れ、しばらく展開されます。
オーケストラがロンド主題をほのめかしながら、独奏チェロとともに盛り上がってゆき、華やかに曲を閉じます。

 
あまり人気のないラロのチェロ協奏曲ですが、録音はそこそこあり、一流チェリストがけっこう録音しています。
私も数種類持ってますが一番好きなのは、デュ・プレ、トルトゥリエを差し置いてマット・ハイモヴィッツ独奏によるものです。

 え、それ誰って?

1980年代に神童と騒がれたチェリストです。
10代でドイツ・グラモフォンと専属契約を結び話題になりました。
このCDは彼のデビュー盤で当時18歳、ジャケット写真も初々しいですね。
なお前にいるのがマット・ハイモヴィッツ君で、後ろは指揮者のレヴァインです、なんか似てますが親子ではありません(髪型おんなじ!)。
デビュー・アルバムにちょっとマイナーな協奏曲を選んだのはクレバーでした。
ドヴォルザークやシューマンだったらとっくに忘れられていたでしょう。
マット君、若々しく明るい音で朗々と屈託のない演奏を展開してとても素敵だと思います。
まあラロさんには悪いけどそれほど深みがある曲ではないので、若いチェリストが勢いに任せて一気に弾ききった演奏がはまってる気がするんですよね。

なおハイモヴィッツ氏は、いまも第一線で活躍しています(ヒゲ面のオッサンになってますけど)。

(2023.02.25.)

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