宮部みゆき/希望荘
(小学館 2016年)



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親分:このあいだ、ケイト・モートンの「湖畔荘」を読んだので、今度は宮部みゆき「希望荘」を読んでみたぞ!

ガラッ八:わかるようなわからないような読書傾向でやんす。

親分:人畜無害でお人よし、なのになぜか事件に巻きこまれてしまう「杉村三郎シリーズ」第4弾、初の短編集だ。
  これまで「誰か」「名もなき毒」「ペテロの葬列」と長編は一応読んできたんだが、どれも途中でだれちゃってとばし読み。
  今回は短編集ということもあって、はじめてきちんと全部読んだぞ、どんなもんだい!

ガラッ八:威張るポイントが低レベルでやんす。

親分:前作「ペテロの葬列」のラストで思いがけず離婚してしまった杉村三郎は、東京の片隅で地味に探偵事務所を開設。
  本職の探偵になったら事件を呼び寄せる体質が鈍ったのか、暇を持て余している。
  それでも人徳というのか、大家さんやご近所さんや仕事を回してくれる探偵事務所に恵まれて、なんとかやっている。
  収録された4編はどれも高水準、一瞬も退屈することなく一気読みしてしまった。

ガラッ八:どういう話が入っているんで?

親分:「自殺したはずの知り合いの老婆を街で見かけた」という近所の奥さんの相談事を、暇に飽かせて真面目に調査するとなんと・・・という「聖域」
  介護施設に入所中の老人が死ぬ前に、「むかし人を殺したことがある」と告白した件を調べる「希望荘」
  不倫して失踪した蕎麦屋の若主人、とてもそんなことをする人には思えなかったが・・・という「砂男」
  東日本大震災の日にちょうど東北に出かけて行方不明になったアンティーク雑貨屋の店主を探す「二重身」

ガラッ八:なんか地味な事件ばっかりですね、しかもお金にならなそうでやんす。

親分:一見地味な事件でも当事者にとっては大事件、調べると謎は深まり闇は広がり、最後にたどりつく真相には驚かされる。 
  考えるとどれも暗い話なんだが、杉村三郎の柔和で人畜無害で無色透明で無味無臭で人の良いところが救いになっている。

ガラッ八:そ、そこまで言わんでも〜。

親分:人間の嫌な面、闇の面をしっかり描く宮部ワールド、チョー面白いけど読後感はビターテイスト。
  彼女の作品は、運に恵まれない人、弱い立場の人が犯罪を起こしてしまうパターンが多いよな。
  その人だけが悪いんじゃなくて、そうせざるを得ない状況に追い込まれてゆくのがやるせないな。
  そんな人間の業を冷静に見つめる視線は、大傑作「火車」のころから変わっていない。
  とにかく、読み応え抜群の短編集だった。

(2017.11.09)

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