ドフトエフスキー/カラマーゾフの兄弟(全5冊)
(亀山郁夫・訳 光文社古典新訳文庫 2006〜2007年)

カラマーゾフの兄弟 1 カラマーゾフの兄弟 2 カラマーゾフの兄弟 3
カラマーゾフの兄弟 4 カラマーゾフの兄弟 5


最近話題の、新訳「カラマーゾフの兄弟」、略して「カラ兄」でございます。
実は長いこと「カマラーゾフの兄弟」かと思っていたのですが、
それだと略すと「カマ兄」になり話が別の分野に行ってしまうので大変です。

「ロシアの厳しい大地にたくましく生きる農夫の兄弟をスケール大きく描いた大河小説!」(BGMは「エデンの東」風で)
かと思ったら全然違っとりました

粗野&好色、子供への愛情ゼロの父親(でも金は持ってる)フョードル・カラマーゾフと、
3人の息子たちが織り成す、女と金を巡る愛憎ドラマという意外に俗っぽい話が主軸です。
それにしても第1部〜第3部までがわずか3日間の出来事であることには、ちょっとびっくりしました。

もちろん、女と金の話はあくまでも軸、串カツで言えば串でありまして、
そこに男女の恋愛、親子の情愛、宗教論争、生と死、社会問題、そして殺人事件などこりゃまた具沢山。
いろんな要素をごった煮にして、無理やり読者の口にねじ込む、まさに強制闇鍋小説。
「するする読めて怖くない」と評判の新訳でこの舌触りですから、旧訳はさぞかし苦くて辛いことでしょう。

登場人物も皆さん濃くてというか病んでいて、なにかというとすぐに怒り狂ったり、泣き喚いたり、神に祈ったり、
議論をおっぱじめたり、酔いつぶれたり、喧嘩したりするので、読むほうもいささか消耗します。
読んだ後には心にザラザラした澱のようなものが残ります。
それをキチンと咀嚼して消化するには少し時間が必要です。
あるいはもう一度読み返したほうが良いかもしれません。

老婆心ながら、読後にそういう澱を味わうのが読書の醍醐味ではないかと。
最近は読んだ後になーんにも残らない、消化不良にも下痢にもならない(下品ですみません)小説ばかりを
つい読んでしまう傾向があったので、なかなか新鮮な読後感でありました。

第5巻は、60ページ足らずのエピローグをわざわざ別巻として収め(この構成は効果的)、
訳者による「ドフトエフスキーの生涯」「解題」が280ページにもわたり収録されています。
この「解題」が素晴らしく、小説を読み解くための鍵が沢山仕込まれています。

知らなかったのですがこの大作、ドフトエフスキーの急死により未完に終わっていたのですね。
訳者・亀山郁夫さんは現在、「『カラマーゾフの兄弟』続篇を空想する」という本を執筆中とのことです。
これも楽しみです。

(07.8.19.)

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