はらだみずき/赤いカンナではじまる
(祥伝社 2009年)
文庫発売時に改題「最近、空を見上げていない」(角川文庫)




Amazon.co.jp : 赤いカンナではじまる


文庫版「最近、空を見上げていない」



<ストーリー>
ある日、書店員・野際と、出版社営業マン・作本は
文芸書担当の保科史江が書棚の前で涙を流しているのを目にする。
後日、彼女は退職を願い出る。涙の理由は、何だったのか。
関西出張で偶然彼女と出会った作本が、意外な秘密を聞き出してきた……
(「赤いカンナではじまる」)


書店員、編集者、出版社営業マンなど、本に関わる人々たちを軸に描かれる短編集。



それぞれの出会い、別れ、そして再会


前回は荒涼殺伐系の小説をご紹介してしまいましたので、
今回は、どちらかといえばしんみり&ほのぼの系の作品を。

5編からなる短編集です。
すべて本にかかわる仕事をしている人が主人公で、
うち3編に、弱小出版社営業マン・作本が登場します。

基本的に恋愛がからんできますが、甘くはありません。
カカオ80%チョコのような、ほろ苦い大人の味わい。
出会いと別れと再会のドラマの数々。

一番良かったのは「美しい丘」

 北海道から東京にやって来た若い書店員が、作本に連れて行ってくれと頼んだ場所は、なんと・・・。

いやー、ええ話です! せつないです! 純愛です! ハートをわしづかみです!
ふたりの将来に幸あれ、と祈らずにはいられません。 オジサンは応援しているぞー。


「最後の夏休み」も良かったな。
他の作品では傍観者だった作本が、はじめて主人公になります。
なぜだか、私の好きな村上春樹「午後の最後の芝生」「中国行きのスロウ・ボート」」収録)を連想しました。
作品の方向はむしろ真逆ですが、ぽっかり宙に浮いたあの「最後の夏休み感」が共通しているような。
「アルバイト」ってところも同じだし。

 「何かさ、まだやり残したことが、あるような気がするんだ」(219ページ)

気のせいですよ、というか、「そういう気分は一生続くんだよ」、と学生時代の作本に言ってあげたいですね。
ところで作本が締めていたネクタイは、やはりあのネクタイなのでしょうか。
物持ちの良い人だ・・・。
作本にも幸あれ、ですね。


ところでなぜ2010年・本屋大賞にノミネートされなかったんでしょう、これ?
はっきり言って「××××」より、「○○○○○」より、すっとおもしろいじゃないですかー!
(いまのところノミネート10作中8作読んでいます)
できるだけ多くの人に読まれてほしい良い本です。

表紙のイラストも内容にぴったり、素敵です。

(10.2.11.)

「本の感想小屋」へ

「整理戸棚」へ

「更新履歴」へ

HOMEへ