Amazon.co.jp : 赤いカンナではじまる
文庫版「最近、空を見上げていない」
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<ストーリー>
ある日、書店員・野際と、出版社営業マン・作本は
文芸書担当の保科史江が書棚の前で涙を流しているのを目にする。
後日、彼女は退職を願い出る。涙の理由は、何だったのか。
関西出張で偶然彼女と出会った作本が、意外な秘密を聞き出してきた……。
(「赤いカンナではじまる」)
書店員、編集者、出版社営業マンなど、本に関わる人々たちを軸に描かれる短編集。
それぞれの出会い、別れ、そして再会
前回は荒涼殺伐系の小説をご紹介してしまいましたので、
今回は、どちらかといえばしんみり&ほのぼの系の作品を。
5編からなる短編集です。
すべて本にかかわる仕事をしている人が主人公で、
うち3編に、弱小出版社営業マン・作本が登場します。
基本的に恋愛がからんできますが、甘くはありません。
カカオ80%チョコのような、ほろ苦い大人の味わい。
出会いと別れと再会のドラマの数々。
一番良かったのは「美しい丘」。
北海道から東京にやって来た若い書店員が、作本に連れて行ってくれと頼んだ場所は、なんと・・・。
いやー、ええ話です! せつないです! 純愛です! ハートをわしづかみです!
ふたりの将来に幸あれ、と祈らずにはいられません。 オジサンは応援しているぞー。
「最後の夏休み」も良かったな。
他の作品では傍観者だった作本が、はじめて主人公になります。
なぜだか、私の好きな村上春樹「午後の最後の芝生」(「中国行きのスロウ・ボート」」収録)を連想しました。
作品の方向はむしろ真逆ですが、ぽっかり宙に浮いたあの「最後の夏休み感」が共通しているような。
「アルバイト」ってところも同じだし。
「何かさ、まだやり残したことが、あるような気がするんだ」(219ページ)
気のせいですよ、というか、「そういう気分は一生続くんだよ」、と学生時代の作本に言ってあげたいですね。
ところで作本が締めていたネクタイは、やはりあのネクタイなのでしょうか。
物持ちの良い人だ・・・。
作本にも幸あれ、ですね。
ところでなぜ2010年・本屋大賞にノミネートされなかったんでしょう、これ?
はっきり言って「××××」より、「○○○○○」より、すっとおもしろいじゃないですかー!
(いまのところノミネート10作中8作読んでいます)。
できるだけ多くの人に読まれてほしい良い本です。
表紙のイラストも内容にぴったり、素敵です。
(10.2.11.)