百田尚樹/影法師(講談社・2010年)
葉室麟/銀漢の賦(文芸春秋・2007年  文春文庫・2010年)


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男の友情もの時代小説、二連発!

「影法師」
父の遺骸を前に泣く自分に「武士の子なら泣くなっ」と怒鳴った幼い少年。
作法も知らぬまま、ただ刀を合わせて刎頚の契りを交わした十四の秋。
竹馬の友・磯貝彦四郎の不遇の死を知った国家老・名倉彰蔵は、その死の真相を追う。
おまえに何が起きた。おまえは何をした。おれに何ができたのか。

「銀漢の賦」
月ヶ瀬藩の下級武士・日下部源五と、幕閣にまで名声が届くほどの名家老・松浦将監
ふたりは幼なじみで、同じ剣術道場に通っていたが、ある出来事を境に進む道が分かれ、絶縁状態となっていた。
しかし二人の路が再び交差する時、運命が激しく動き出す。


南アフリカで行われているサッカー・ワールドカップ、
日本代表は決勝トーナメント1回戦で、パラグアイにPK戦のうえ敗れました。
翌日の新聞・ニュースには、どれも「日本惜敗!」の文字が。

さてその日の夜、学校から帰ってきた次女。

次女「きょう漢字の書き取りテストで『せきべつ』が出たんだけど、
   これって『惜敗』『惜』と同じ字だって気がついたから、
   ちゃんと『惜別』って書けたよ〜、ラッキー」
「おー、それはよかったなー」
次女「うん、日本が惜敗してくれて助かったよ」

・・・微妙に非国民な親子ですがなにか。


ところで漢字といえば、私が時代小説を苦手としているのは、
難しい漢字が読めないからにほかなりません。

 「鍔に竜の象嵌を施した蝋色鞘の太刀」
 とか
 「物頭がやって来て、御徒組は城下の警固に就けと言った」
 とか、読みにくいったらありゃしない。


しかしなにを思ったか、このたび立て続けに時代小説をふたつも読んでしまいました。
それもどちらも「男の友情まっしぐら」系の骨太小説。

ふたつとも面白かったです!!

「ボックス!」が映画化されたばかりの百田尚樹、初の時代小説、「影法師」は、
茅嶋藩の筆頭国家老・名倉彰蔵と、友・磯貝彦四郎の、40年に及ぶ物語。
「農民の暮らしを楽にするため、新田を開発する」という彰蔵の悲願をかなえるべく、
彦四郎が選んだ道は・・・。

いやこれは泣けます、彦四郎の潔さ、友情に殉じる姿の美しさ。
ズドーンと直球で胸に迫ります。

 「儂は生涯のほとんどを影のように生き人を殺めてきた。奴もまた影のように生きた。
 しかし奴は儂と違い、人を生かした。磯貝彦四郎・・・あれほどの男はおらぬ」 (中略)
 島貫は頬をにやりと歪めて言った。
 「磯貝彦四郎ほどの男が命を懸けて守った男を、この手にかけることはできぬ」 
 彰蔵は喉の奥で呻いた。       (「影法師」 322ページ)


葉室麟「銀漢の賦」は、月ヶ瀬藩の家老・松浦将監と、旧友の下級武士・日下部源五の物語。
二十年前の農民一揆をめぐって絶交していたふたりが、再びあいまみえたとき、
長年の確執を越えた友情が・・・・。
こちらは、泣けるというよりはサワヤカです。

 「源五、お主、上意討ちを命じられて、わしのところに来たのであろう」
 「ああ、確かに命じられたな」
 「恩賞は出るのか」
 「しとげたら鷹島屋敷の留守番役にしてもらう。余生は鷹島で月を眺めて悠々自適というわけだ」
 「屋敷番だと? わしの首がそれしきの恩賞にしかならぬというのか。なぜ、もっと掛け合わぬ」
                                                 (「銀漢の賦」文庫オビより)


ストレートにぐいぐい迫ってくる「影法師」
先の読めない展開から驚きのクライマックスまで小説技巧の粋を尽くした「銀漢の賦」
どちらも読み応えたっぷりであります。


ところでこの2作、どことなく似ている気がします。
「友情」「新田開発」「農民一揆」「上意討ち」といった要素が共通しているし、
親友の一人が家老にまで上り詰めるところもそっくりです。
ただ、物語から受ける印象はかなり異なります。
センチメンタルであると同時に力強い「影法師」、骨太ながらどこかあっけらかんと爽やかな「銀漢の賦」
男の友情を見事に描ききった時代小説二作、読み比べてみるのも一興でしょう。

・・・出てくる漢字はやっぱり難しいですが。


(10.7.3.)


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