乾くるみ/イニシエーション・ラブ(原書房 2004年)



Amazon.co.jp : イニシエーション・ラブ(単行本)

Amazon.co.jp : イニシエーション・ラブ (文春文庫)

<ストーリー>
A面
大学4年生の僕(たっくん)は、生まれて初めて行った合コンで2歳年下のマユに出会う。
   やがてふたりは付き合いはじめ・・・。
B面
マユのため、地元・静岡で就職したたっくん。
   ところが研修が終わるやいなや東京本社勤務を命じられてしまう。
   週末だけの遠距離恋愛を強いられた二人の関係は・・・。


80年代を舞台にした、ほろ苦いラヴ・ストーリーであると同時に、
恐ろしくトリッキーな「仕掛け小説」です。

そもそも乾くるみさんは、「メフィスト賞」からデビューした新本格ミステリの人で、
この「イニシエーション・ラブ」も、主にミステリ関係者から絶賛されています。
でもやっぱりこれはラヴ・ストーリー、犯罪はなにひとつ起こりません

二人の出会い、 若い恋人同士の様子、悲喜こもごもの新入社員研修など、
たとえば秋月りす「OL進化論」が好きな方なら、きっと「あるあるー」とうなずくであろう、
具体的で細かい筆致が積み重ねられてゆきます。
ストーリー自体は平凡でありきたり、いやむしろご都合主義的なのですが、とにかく読ませます。
というか、ご都合主義なところもまた計算ずく。
クリスマス・イヴのシティホテル、ちょうどキャンセルがあって良い部屋が取れるところなど、
出来すぎだなあと思ったら、やっぱり・・・。

グイグイ読ませられながら、あちこちで「おや?」とひっかかりを覚えつつ最後のページへ。

  「え?」

頭の中に特大のクエスチョンマークを放り込まれて、物語は突然終わります。
私は約30秒間、口を半開き状態で呆然としていました。
何がなんだかわからないながらも「ひょっとして・・・」と、
最初から読み返し、ようやく「こういうことだったのか」と得心いたしました。
ずいぶん細かい、と思われた具体的描写も、伏線のうちだったとは。

叙述トリックの切れ味としては、歌野晶午「葉桜の季節にきみを想うということ」に匹敵しますが、
ちょっと(いやかなり)後味が悪いことと、「最初にトリックありき」的なところ、
あと「考え落ち」であること(読み終えてもすぐにはわからない)が、読者を選びそう。
私は作者の遊び心と人の悪さに魅了されましたが。

とにかく一度読めば(良くも悪くも)忘れられない作品になること確実な一冊。

(04.11.3.記)


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