佐村河内守/交響曲第1番"HIROSHIMA"
(大友直人 指揮 東京交響楽団)




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昨年の中ごろだったでしょうか。

なんでも「サムライ河内」とかいう人が凄い交響曲を書いたらしい、という噂が耳に入りました。

 「サムライ河内?」関西のレスラーのリングネームかいな!?
 落語「寿限無」「やぶらこうじ ぶらこうじ」みたいやなー。

などと例によってアホなことを思い浮かべつつ情報を収集いたしますれば、
作曲者は佐村河内守(さむらごうち まもる)(1963〜)という広島生まれの被爆者二世の方で、
演奏時間80分に及ぶ「交響曲第1番"HIROSHIMA"」が、そのスンゴイ曲。

驚くべきことに、佐村河内氏は専門的な音楽教育は受けず、ほぼ独学で作曲を学び、
しかも20歳ごろから聴覚障害に冒され、35歳で完全に聴覚を失ってしまったとか。
それでも絶対音感の記憶を頼りに五線紙に音符を書き続け、2003年に「交響曲第1番"HIROSHIMA"」を完成。

 作品はコンサートで何度か演奏され、聴衆を巨大な感動の渦に叩き込んだといいます。

このたび、満を持してCDが発売されました。

 恐るべき大傑作です。

第1楽章「運命」19分58秒、第2楽章「絶望」34分33秒、第3楽章「希望」26分53秒、合計81分24秒!
過酷な運命に絶望しつつも、かすかな希望を信じて前に進んでゆこうというコンセプトでしょうか。
作曲者の人生が投影されたかのようなスケールの大きな交響曲です。

様式的には後期ロマン派に近く、マーラー、ショスタコーヴィチを連想します。
また、苦しい境遇のなか交響曲を書き続けたアラン・ペッテションも思い出さずにはいられません。
ただし重苦しいだけの沈んだ音楽ではなく、
ロマンティックでセンチメンタルな個所や、勇壮なアレグロ、敬虔な祈りのコラールもちりばめられていて、変化・起伏はたっぷり。退屈しません。

それにしても全曲を貫くこの異常なまでのテンションの高さは何?
どの楽章もエネルギーに満ち溢れていて、しかもストレートまっすぐ真向勝負
「書かざるを得ないから書いた、やむにやまれず書いた、発表のあてはないけど書いた」作品の迫力でしょうか。

とくに第3楽章中盤からの激しい展開は大迫力。
それまでに登場した主題群が対位法的に絡み合い、くんずほぐれつ大格闘。
オーケストレーションが非常に緻密で、聴くたびに発見があります。
大音響とともにすべてが崩れ落ち、コラール主題がやさしく歌われたと思ったら、
再び起こる悲劇的な闘争・・・・・もうどこに連れて行かれるのかわかりません。
そして最後の5分間、高貴で清らかな「天昇コラール」がすべてを浄化し、希望を象徴する鐘の音が響きわたり、
眩しい光の中へ消えてゆくように全曲が閉じられる・・・・・うーん、見事な構成です。


これほどエネルギーに満ちた音楽に、久しぶりに出会いました。
聴くと自分の中にパワーが注入され、薄汚れたオッサンの心も洗われるようです。
しばらく毎朝この曲聴いて、充電してから仕事に行こうかな(←81分だぞっ!)

(11.7.23.)




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