丸谷才一/輝く日の宮(講談社 2003年)
<ストーリー>
昴(すばる)女子大学文学部助教授、杉 安佐子の専門は19世紀日本文学。
「元禄文学学会」で、「奥の細道」について独創的な説を提出すれば重鎮に頭ごなしに否定され、
座談会で、「源氏物語」の失われた巻「輝く日の宮」の存在を提唱すれば源氏学者の怒りを買いと、
なかなか大変な毎日ですが、恋に仕事に学問に、軽やかに立ち向かってゆく彼女の姿を描きつつ、
著者・丸谷才一がさまざまな文学的ウンチクを披露!
丸谷才一先生10年ぶりの長編小説(「女ざかり」以来)。
思いっきり遊んでます。
そもそも、美人で独身バツイチかつ新進気鋭の国文学者というヒロインの設定からして、
好み/願望まる出しでわっ!?
「杉 安佐子」という名前から「松 たか子」を連想するのは私だけかっ?
んでもって、出だしのパートは泉鏡花のパロディだったりします。
また、「奥の細道」の有名なフレーズ、「月日は百代の過客にして」の「百代」に、
「ひゃくだい」でなく「はくだい」とルビが振られているのは何故か、など詳しく説明してくれたりします
(「そんなのどうでもいいじゃんか」と思いながら読んでいたら、
本当に「どうでもいい」という結論になったのには、コケました)。
ほかにも、芭蕉が「奥の細道」の旅に出た本当の理由は、とか、
タイトルにもなっている、「源氏物語」の失われた巻の話などが、次から次へと出てきます。
「ぼくったら、こんなことも、こんなことも、知ってるんだもんね〜」
と、言わんばかりの(というかモロ言うてる)ウンチク話の洪水です。
じゃあつまらん本なのかといえば、
最近読んだ小説の中でも屈指の面白さだったりするから始末が悪いのです。
笑えるシーンもあります。
学会で安佐子の発表が終わって、座長が「なにかご質問は?」と尋ねると会場はシーン、
「指されたら大変だと警戒している学生みたいに、うつむいてゐる人もゐる。
これがたいてい大学の先生なんだから愉快ですね」(94ページ)
などと、丸谷先生、人が悪い(優等生的優越感が見え隠れしてちょっといやらしい)。
トレードマークの旧仮名遣ひも健在です(慣れるまでちょっと戸惑います)。
最終章は、問題の「輝く日の宮」を、安佐子が小説として再現したもの(の一部)。
前回ご紹介した「千年の黙」と一緒にお読みいただくと、興味倍増かも。
安佐子の恋愛模様は、渡辺淳一とか高樹のぶ子といった
「その道」の巨匠とくらべると、ずいぶんサラリとしたもの。
しかし、やや「都合のいい女」に描きすぎではないでしょうかね。
つまりはここでもオジサンの好み/願望まる出しなわけですが・・・
女性の読者は、どのような感想を持たれるでしょうか。
ともかく、文学のウンチク話を有難く拝聴し、
読み終わればちょっと賢くなった気分が味わえる娯楽小説、
ということにしておきましょう。
(03.12.5.記)