西加奈子/円卓
(文藝春秋 2011年)
Amazon.co.jp : 円卓
祖父母、両親、三つ子の姉、8人の大家族の中で愛されて暮らす琴子(こっこ)は口が悪くて少し偏屈。
口癖は「うるさいぼけ。なにがおもろいねん。」
平凡やしあわせに反発する琴子、小学3年生。好きな言葉は、「孤独」。
きらきら光る世界で考え悩み成長する姿を描きます。
東日本大震災から六週間が過ぎました。
行方不明の方もまだ多いし、
避難所で不自由な生活をされている方も大勢いるし、
原子力発電所は不安定だし、
・・・先が見えない閉塞感に、被災していない我々も元気がなくなりそうです。
しかし、こういう時こそかえって活発に経済活動をしなくてはいけない、
とあちこちで言われていますね。
日本の経済が委縮したら、被災地の復興もままならなくなります。
ところで、最近よくスポーツ選手などが、
「みなさんに勇気を与えたい」
と言ってます。
ケチつけるようで気が引けますが、ちょっと違和感を感じます。
「与える」は、目下に向かって「下げ渡す」ニュアンスでは・・・?。
「ペットに餌を与える」 「子供に小遣いを与える」
「『木曽のあばら屋』にまんじゅうを与える」(ここらで熱いお茶が一杯こわい)
のように使いますが、
「卒業式のあとで先生に花束を与える」とは言わないですよね(最近の子供は言ったりして)。
広辞苑にも、「自分のものを目下の相手にやる。授ける」とあります。
まあ、言ってる人は悪気はないのですから、目くじら立てるほどのことではないのかもしれませんが・・・。
できたら「勇気をお贈りしたい」「元気をお届けする」などと言ってくれたら違和感なくなるんですけど。
ところで、最近読んで元気を「与えられた」一冊がこれです。
西加奈子「円卓」
小学三年生の少女、渦原琴子(こっこ)と愉快な仲間たちをコテコテの関西弁で描いた、
大変おもろい長編小説です。
おじいちゃん、おばあちゃん、両親、三つ子(!)の姉、と8人で公団住宅で暮らすこっこ。
居間にはつぶれた中華料理店でもらった真っ赤な円卓が鎮座しています。
せ、狭そう・・・。 でも元気いっぱい。
「孤独」にあこがれ、眼帯にあこがれるこっこの賑やかな日常とゆるやかな成長。
感銘を受けたことを毎日、ジャポニカ学習帳にメモするこっこ。筆圧が強いのでときどき破れます。
地の文の冷静なツッコミが、ちびまる子ちゃんみたいですが、
「円卓」の登場人物はほとんど全員スコンと「天然」で、屈折していないところが清々しいです。
読みながら何度も笑い、終わってホンワカした気分に。
こっこを取り巻く世界は一種のユートピア。
日本がこういう時期だからこそ、何気ない日常のシアワセをすくいとって
その輝きに気付かせてくれる、こういうお話は心に沁みます。
吃音の友人・ぽっさんの存在がとくに光ってます。
小学3年生にしていい男ですぽっさん。
万城目学の「かのこちゃんとマドレーヌ夫人」をちょっと連想しました。
あれも傑作だったなあ。
泣ける「マドレーヌ夫人」と笑える「円卓」。
どちらも子供が主人公の元気の出る話、おすすめです。
(11.4.24.)