バッハ/フーガの技法
(エマーソン弦楽四重奏団)
Amazon.co.jp : The Art of Fugue
HMV : The Art of Fugue
Tower@jp : Emerson String Quartet/The Art of the Fugue
J・S・バッハ「フーガの技法」は、楽譜に楽器指定がありません。
作曲にあたりバッハがどの楽器を想定したのかは長いあいだ謎だったのですが、音楽学者の地道な研究の結果、いまでは
ペダルなしの鍵盤楽器(オルガンではなく、クラヴィーア、フォルテピアノなど)のために作曲された
ということが、ほぼ明らかになっています。
さて、その研究成果を土足で踏みにじるのがこのCD。
現代を代表する四重奏団であるエマーソン・カルテットが弦楽四重奏で演奏した「フーガの技法」(2003年録音)です。
もちろん古楽器なんか使いません、それどころか1990年前後に作られたサラピン(←死語?)の楽器をブイブイ鳴らして、痛快ですらあります。
もちろんヴィヴラートもありです。
そしてなんともはや見事な演奏です。
コントラプンクトゥスT
4つの楽器が織りなす、硬質でつややかなタペストリー。
どこにも隙のない、厳密な音の幾何学。
不純物を徹底的に濾過した響きの遊戯を、分析的にひもといてゆくエマーソンSQ。
静かで濃い時間が、心地良く流れていきます。
同一主題によるフーガが何曲も続く曲集ですから、盛り上がるとか心躍るとか萌えるとかいった要素は皆無(コントラプンクトゥス\のみ盛り上がります)。
むしろ作品中に抽象的な美を見つけ出す、現代音楽的な鑑賞態度が必要になります。
250年も前にこのような曲を作るとは・・・。
コントラプンクトゥスW
この曲を愛好したグレン・グールドの演奏は、非人間的なまでの美を感じさせる名演。
比べるとエマーソンSQの演奏、あまり冷え冷えとした感触はありません。
弦の響きは、どうしてもひとの息遣いを感じさせるのでしょうか。
幾何学のようだった「フーガの技法」が、
しだいに敬虔な祈りのようにも、諄々とした語りのようにも聴こえてきて、気がついたらなにやら感動していた・・・、
というグールドに鼻で笑われるような感想を抱いてしまいました。
まあ、こういうのもありなんじゃないでしょうか、私は好きです。
コントラプンクトゥス\(エマーソン四重奏団)
(11.10.6.)