エリザベス・ノックス/ドリームハンター
(鈴木沙織・訳 NHK出版 2007年)

ドリームハンター (上) ドリームハンター (下)


<ストーリー>
南半球にある小さな国。
そこには特別な能力を持った人間しか入れない領域「プレイス」がある。
特殊能力者「ドリームハンター」は「プレイス」で夢を捕獲し、
戻ってから眠れば、周囲の人たちにその夢を「鑑賞」させることができる。
ドリームハンターたちは「癒しの夢」「快楽の夢」を人々に鑑賞させることで、富と名声を築いている。
ある日、偉大なドリームハンター、ツィーガ・ヘイムが、行方不明に。
彼の娘ラウラは、父親の足跡を追ううちに、一族に伝わる「あるもの」を知ることになる。


皆様は、眠るときを見ますか?
私がよく見るのは、大きな温泉旅館の廊下を何ものかに追いかけられたり、
試験場で席についてから全然勉強してないことを思い出したり、
巨大なトイレの掃除を命じられたりする夢です。
・・・ロクな夢がないんですけど。

「ドリームハンター」はニュージーランドの作家のファンタジー。
そう思って読むせいかもしれませんが、英米物とは微妙に風合いが異なるような。

「プレイス」で夢を捕獲してきたドリームハンターの近くで眠れば、だれでもその夢を「鑑賞」できます。
強力なドリームハンターなら、夢は鮮明かつリアルで、自分自身の体験のよう。
「回復」の夢を見れば病気が良くなり、「冒険」の夢ならアクション映画のヒーローになれます。
夢を上演する専用の劇場もあり、人々の大きな娯楽になっています。

ありそうでなかった、魅力的で独創的な設定です。
ちょっと類似作が思いつきません(ファンタジー、それほどたくさん読んでませんが)。

さて、ドリームハンターの第一人者・ツィーガが失踪し、物語は不穏な雰囲気をはらみはじめます。
夢を使って人心操作をたくらむ政治家の陰謀も絡んできます。
父を探す娘ラウラは、もともと内気な少女ですが、ドリームハンターの能力に目覚めたことで
ゴーマンになったり、暴走して他人を傷つけたりしながらも、徐々に成長してゆきます。
行方不明になった父を娘が捜し求めながら成長するという展開は、
以前読んだオーストラリアのファンタジー「サブリエル」と似ています。
これって南半球仕様なのでしょうか?(なんじゃそりゃ)

後半、「プレイス」の謎が解け、さまざまな夢の意味が明らかになり、「おおーっ」と驚くことに。
夢の内容もすべて伏線だったのですね(まあそうじゃないかとは思ってましたが)。 
物語世界全体に、スケールの大きいトリックが仕込まれています。 この仕掛けはすごいな。
最後にはタイム・パラドックスSFの様相を呈しながら、基本的にハッピーエンドで幕を閉じますが、
終わり近く、ある「登場人物」がつぶやく言葉
「ラウラ、わたしはあなたとはべつの世界にいるようです」
・・・このひとことはせつなかったですなぁ。

骨太なファンタジー長編でございました。 読み応えあります。

(07.12.02.)

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