ジョン・ロード/代診医の死(1951)
(渕上痩平・訳 論創社 2017)



Amazon : 代診医の死 (論創海外ミステリ)


田舎の開業医グッドウッド医師は、妻と二人で1か月の休暇旅行を計画、代診医としてロンドンからソーンヒル医師を雇う。
ソーンヒルは真面目そうな好青年で、グッドウッドは引き継ぎを終え安心して旅立ってゆく。
 残されたソーンヒルは、資産家トム・ウィルスデンの病状が、グッドウッドから聞いていたより遥かに悪いと判断する。
しかし、頑固なウィルスデンは新たな治療を拒み、その晩に体調を崩して死亡してしまう。
 気落ちするソーンヒルだが、目の前の業務は消化しなければならず、翌日も往診にでかける。
しかしソーンヒルはそのまま行方不明となり、森では焼けた車の中から身元不明の遺体が発見される。
いったいこの田舎町で何が起こっているのか・・・。


親分:コアな本格ミステリ・ファンの間で最近ちょっと話題のジョン・ロード「代診医の死」を読んだぞ!

ガラッ八:ジョン・ロード? ♪何でもないようなことが 幸せだったと思う〜ってやつですね。

親分:The 虎舞竜の「ロード」じゃねえって! 
  ジョン・ロード(1884〜1964)は、イギリスのミステリ作家で、別名義も合わせると140編もの長編を書いたそうだ。
  生前は売れっ子だったが、同じようなパターンの薄っぺらいミステリを量産したので、死後は急速に忘れ去られた。

ガラッ八:日本にも似たような作家、何人かいるような・・・。

親分:しかし、それほど書きまくれば傑作も生まれる。 この「代診医の死」は、ロード円熟期を代表する傑作と言われているのだ。

ガラッ八:下手な鉄砲も数撃ちゃ・・・

親分:いやいや凡庸な作家は、いくら撃っても当たらねえよ。
  そこへいくとやはりロード、タダモノではなかったんだろうな。

ガラッ八:で、やっぱり傑作でしたか、「代診医の死」は?

親分:巧みなプロット、大胆なトリック、意外な犯人、本格ミステリとしては紛れもない傑作だ。
  ただし、小説としてはちょっとなあ・・・。

ガラッ八:え、どういうことでやんすか?

親分:登場人物のキャラが全然立っていないんだよな。
  レギュラー探偵のプリーストリー氏は元数学教授という設定だが、少なくとも本作では単なる普通のオッサンで、はっきり言って「キャラが無い」!
  謎を解くだけのマシーンと言ったら言い過ぎかな。

ガラッ八:「キャラなし」の「謎解きマシ−ン」でやんすか〜。

親分:彼は安楽椅子探偵で、毎週土曜日に友人と自宅で夕食会を催す。
  メンバーは秘書のハロルド・メイフィールド、医師のオールドランド、元警察官のハンスリット、そして現役の警視であるジミー・ワグホーン。
  ワグホーン警視が捜査中の事件を皆に相談し、出席者たちと討論の末、プリーストリー氏が意外な真相を指摘するパターンらしい。

ガラッ八:個人情報・捜査情報ダダ漏れでやんすね。

親分:時代を考えればしょうがないんだろうが、それよりも問題なのがメンバーがみな没個性でさっぱりキャラがないこと。
  全員オッサンで(年齢等の正確な記述はないが)、同じような口調で同じようなことをしゃべり、ジョークも喧嘩も色気もないので、
  夕食会の推理場面を読んでいると、だんだん眠くなってくるほどだ。

ガラッ八:寝る前にベッドで読めば、良く眠れていいじゃないすか。

親分:おお、良い考え・・・・・・いや、それってエンタテインメント小説としてどうよ。
  夕食会で推理談義といえば、アシモフの「黒後家蜘蛛の会」バークリーの「毒入りチョコレート事件」があるが、
  あれらは登場人物のキャラがもっと立っているよなあ〜、バークリーは女性メンバーがいたりするよなあ〜、ここまで退屈はしないよなあ〜。

ガラッ八:じゃあ結局面白くなかったってことでやんすか。

親分:ところがミステリとしての切れ味は見事だから始末が悪い。
  さっきも言ったように、巧みなプロット、大胆なトリック、意外な犯人という点ではかなりハイレベルだ。
  なので、本格ミステリ・ファンなら読んで損はない。
  いっぽう「面白い小説を読みたい」というフツーの人には、オススメするのをためらってしまうな。

ガラッ八:それってつまり、「本格ミステリ・ファン」はフツーの人じゃないって意味ですかい?

親分:そ、そんなことは言っていないっ!

(2018.10.06.)


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