チマローザ/ピアノ・ソナタ全集(2枚組)
(関孝弘:ピアノ 1996録音)



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「どうもこんにちはー」

「ありがとうございますー。あ、いま、チェロのA線の切れたやつをいただきましたけどもね」

「ありがとうございます〜」

「こんなん、なんぼあっても良いですからね」

「いきなりですけどね、うちのオカンがね、好きな作曲家がおるんやけど、その名前をちょっと忘れたらしくてね」

「忘れたの? ほな俺がね、ちょっと一緒に考えてあげるから どんな特徴ゆうてたかってのを教えてみてよ」

「なんかイタリアの作曲家で、短いソナタをたくさん作ったらしいんやわ」

「おー スカルラッティやないかい それはもう完全にスカルラッティやな」

「いや俺もスカルラッティと思うてんけどな」

「そうやろ」

「オカンが言うには、生前はオペラ作曲家として大人気だったいうねん」

「あー ほなスカルラッティと違うかあ 若いころはオペラも書いたけど、あんまり当たらんかったんよなあ。
 オカンほかになんか言ってなかった?」

「なんかファーストネームはドメニコいうらしいわ」

「やっぱりスカルラッティやないかい、ドメニコ・スカルラッティやろそれは」

「いやだから俺もスカルラッティと思うてんけどな」

「そうやて」

「オカンが言うには レンガ職人の父と洗濯婦の母の貧しい家庭に生まれたらしいんやわ」

「ほなスカルラッティちゃうやないかい スカルラッティのオトンはアレッサンドロ・スカルラッティゆうて、相当偉い作曲家やったんや
 偉い父親持つと息子は大変やで、 うちの息子も気の毒やわ」

「どさくさにまぎれて何いうてんねん」

「しかしホンマに分からへんがなこれ」

「どうなってんねんもう」


 ・・・はい、答えはドメニコ・チマローザ(1749〜1801)です!

代表作はオペラ・ブッファ「秘密の結婚」ですが、2〜3分の短い「ピアノ・ソナタ」を88曲残しています。
これらがもう、お洒落で可憐で優美で軽妙、モーツァルトと比べても引けを取らない魅力に溢れています。
実際「イタリアのモーツァルト」と呼ばれることもありますが、チマローザのほうが年上です。
むしろ若いころのモーツァルトのほうが、チマローザに代表されるイタリアン・スタイルを熱心に吸収していたのが本当のところ。

 ソナタ第35番 イ長調 (最高にセンスがいいです!)
 (このCDの演奏ではありません)

メロディーセンスの良さとそこはかとない上品さ。
一つ一つが小さな宝石のようです。
短いので全88曲がCD2枚に収まります。

 ソナタ第28番 ハ短調 (甘い哀愁をはらんで走り抜ける)
 

おそらくは音楽愛好家のために作られたと考えられていて、超絶技巧はありません。
アマチュアでも弾けるシンプルなメロディ、長さもそこそこで、あまり難しいパッセージは使えないというハンデがありながら、
単純さの中に込められた高度な音楽性が光ります。
スタンダールはチマローザの音楽を愛好し、「チマローザに並べ得るのはモーツァルトだけだ」という言葉を残しています。

 ソナタ第9番 ニ短調 (シンプルでみずみずしい)
 


チマローザの晩年は、フランス革命という歴史の大波に翻弄されました。
彼は1793年からナポリの宮廷楽長をつとめていましたが、1798年ナポレオンがイタリアに進軍しローマを征服、翌99年にはナポリも占領され共和国となってしまいます。
チマローザは宮廷楽長でありながら、保身のためか、革命思想にかぶれたのか、ルイジ・ロッシの詩による「共和国賛歌」を作曲します。
しかし半年後には王の軍隊がナポリを奪還、ナポリは再び王政に戻ります。
「共和国賛歌」の作詞者ロッシは処刑され、チマローザも1799年12月に投獄されてしまいます。

 ソナタ第27番 変ロ長調 (華麗でポップな1曲)
 

チマローザはなんとか処刑はまぬがれたものの、ナポリを永久追放されヴェネチアへ。
しかし数か月の獄中生活で健康を害したのか、胆石の発作と思われる症状で1801年1月に急死。
あまりにも突然の死だったため、ナポリのカロリーナ女王が刺客を送り暗殺したという噂が流れたほど。
ヴェネチアはチマローザをたいへん愛し、盛大な葬儀ののち聖ミケーレ・アンカンジェロ教会に埋葬しました。
ローマでも特別追悼ミサが開かれ、当時を代表する彫刻家カノーヴァの手で胸像が作られたそうです。

 ソナタ第72番 ト短調
 

関孝弘の録音は、世界初の全曲録音として大変話題になった名盤です。

なお20世紀にイギリスの作曲家アーサー・ベンジャミンがチマローザのソナタから4曲を選んでオーボエ協奏曲に編曲。
ある意味原曲よりも有名で、現在もよく聴かれます。

 オーボエ協奏曲 第4楽章
 

 ソナタ第56番 ハ長調 (原曲)
 

(2024.02.10.)

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