ビル・ブライソン/
ドーナッツをくれる郵便局と消えゆくダイナー
(朝日文庫、2002年)




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ずいぶん前(10年以上前?)、アメリカン・コラム・ブームと言うべきものがありました。
ピート・ハミル、ボブ・グリーンなどがもてはやされ、私もけっこう楽しんで読んだものです。
その後日本でも、こういう週刊型コラムが流行し、
浅田次郎「勇気凛々ルリの色」、中野翠「私の青空」ナンシー関(合掌)「耳のこり」
といった名連載が生み出されました。
一方で本家のアメリカのコラムは、最近あまり紹介されないなと思っていたら、この本を見つけました。

 ドーナッツをくれる郵便局と消えゆくダイナー

著者のビル・ブライソンは1951年生まれのアメリカ人、77年にイギリスに渡り、新聞社に勤務、
向こうで結婚して子供も生まれ、活発に文筆活動を行っていましたが、
95年に家族を伴い帰国、以後はニューイングランドで執筆しているコラムニストです。
本書は96年9月から98年9月までの2年間、「ナイト・アンド・デイ」という週刊誌に連載されたコラムをまとめたもの。

ビルさん、18年ぶりに戻った故郷の、あまりの変貌振りにいちいち大げさに驚きます。
「プチ浦島状態」とでもいいましょうか。
たとえばイギリスではテレビのチャンネルは4つがせいぜいなのに、アメリカでは50以上のチャンネルがあって、しかも全部面白くない
どこかで面白い番組をやってないかな、と順に見て回って最後のチャンネルに行き着く頃には最初のチャンネルで何をやってたか完全に忘れている・・・。

でも基本的に著者の母国アメリカを見る目はあたたかいものです。
タイトルの「ドーナッツをくれる郵便局」。 近くの郵便局で「お客様感謝デー」の催しがあり、
ブライソン氏は、ドーナツとコーヒーをタダでもらい、さらに職員の愛想のよい応対に、「イギリスでは考えられない!」と感心します。

 「私は感動を覚え、なんともありがたいことだと思った。
 心を持たないロボットのような郵便局員が、手紙をなくしたり、(中略)誤配しているのでなく、
 高度な訓練を受け、ひたむきに仕事に打ち込む人々が、手紙をなくしたり、(中略)誤配しているのだと知るのは
 悪くないことだった」
(18ページ)

・・・そう、ブライソン氏、じつは誤配にクレームをつけるために郵便局に来ていたのですね。

「ここが変だよアメリカ人」的内容のコラムも多いです。
(こういうのを好むのは日本人だけかとおもったら、そうでもないんですね。)
例えば、1ブロック先に買い物に行くにも車を使うとか、 すぐに裁判を起こすとか、
テレビの通販で「素っ裸でマカレナを踊るための独習ビデオ」を買うことができるとか、
税金の申告書がとても理解できないほど複雑怪奇であるとか、
個人個人は気さくで親切なのに、組織になるといきなり杓子定規になるとか。
・・・・裁判は別にして、日本もかなりアメリカに近いような気もします。

ちょっと変だけど愛すべき国アメリカ、万歳、ってなノリの、気楽に読める本です。
2001年9月の例のテロ事件を経た現在、著者ビル・ブライソン氏がどのようなコラムを書いているのか少し興味を惹かれます。

(02.7.15.記)


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