乃南アサ/風の墓碑銘
(新潮社 2006年)
Amazon.co.jp : 風の墓碑銘
<ストーリー>
古い借家の解体現場から掘り出された男女と胎児の白骨死体は何を語るのか?
警察をあざ笑うかのように、家の所有者であった認知症の老人も殺害される。
中年の毒気を撒き散らす刑事・滝沢の奇妙な勘働きと、
音道貴子の冷静な分析力・記憶力が再びコンビを組む。
過去と現在を交錯させながら、捜査陣は狂気の源に一歩ずつ近づいてゆく・・・。
近頃、乃南アサの「音道貴子シリーズ」を読んでいます。
そして、はまっています。
「凍える牙」(長編・1996)
「花散る頃の殺人」 (短編集・1999)
「鎖」 (長編・2000)
「未練」 (短編集・2001)
「嗤う闇」(短編集・2004)
「風の墓碑銘」(長編・2006)
「風の墓碑銘」が、現在のところ最新作(にして最高傑作では?)。
いやあ、重厚です〜。 風格です〜。 もう一気読みです〜。
主人公が女性だからといって、軽いノリではありません。
刑事部屋という男性優位の世界でただ一人、
男性に伍して職務に邁進しながらも、苦悩とストレスを一身に背負ってしまう音道貴子の姿には
男性読者からも思わずエールを送りたくなります。
捜査活動がリアルに、緻密に描かれるいっぽう、
音道貴子の女性としての日常も、角田光代や森絵都の小説顔負けに、
これまたリアルで等身大に描写されます。
事件を追いながらも、恋愛や、人間関係や、家族とのつながりに苦労が絶えません。
病気に冒されていることが明らかになった恋人・昴一や、
同僚の鑑識課員・奈苗とのエピソードも、本筋とはまた別に強い印象を残します。
それにしても、たたき上げ刑事・滝沢とのコンビ、よい味だしてます。
第1作「凍える牙」からコンビを組むこの二人、
貴子は滝沢が敏腕刑事であることは認めるものの
アザラシのような外見や、だらしない服装や、女性蔑視的発言には内心辟易。
滝沢のほうも、貴子の優秀さに一目置きながらも、
その肩肘張った余裕のなさや、性格のキツさにちょっとうんざり。
なのに周囲から見ると、絶妙の名コンビに見える、というのがなんだか笑えますし、
結局この二人、なんだかんだ言いながら、お互い深いところで信頼し合っているのです。 恋愛感情ゼロですが。
そんな微妙な関係性を、過不足なく描いたうえ、
どちらにもちゃんと感情移入させてくれるんだから、上手いものですねー、さすが直木賞作家。
二人以外の登場人物も、みな入念に描かれていて、
血肉をもった人間としてページの間から立ち上がってくるよう。
ホントに立ち上がってきたら怖いけど。
最後に明かされる真相にはやりきれない思いを押さえ切れませんが、
希望も感じさせるラストに読後感は悪くありませんでした。
あの警察小説の傑作「マルティン・ベック・シリーズ」を超えてるかも、と思うんですがどうでしょう。
そういえばいま思いついたけど、この小説の構成、「笑う警官」にどこか似てるな。
すばらしく面白い小説ですが、
シリーズ未読の方は以前の作品を1〜2作読んでからのほうがよいと思います。
(08.6.4.)