柳広司/贋作・「坊っちゃん」殺人事件
(集英社文庫 2005年 親本は2001年)


Amazon.co.jp : 贋作『坊っちゃん』殺人事件

<ストーリー>
 松山中学の教師をやめ、今は東京で街鉄の技手として働いている坊ちゃん
 ある日突然、山嵐がたずねてきて言うことには、なんと赤シャツが無人島で首をくくって自殺、
 おまけに死んだのは、坊っちゃんたち赤シャツ野だいこをぶん殴った次の日だという。
 「あいつは本当に自殺したのか?」
 殺人疑惑を口にする山嵐に誘われるまま松山に舞い戻った坊っちゃんを待っていたのは・・・?


なんと、夏目漱石の「坊っちゃん」がミステリになるとは!
奥泉光さんが、「我輩は猫である」をミステリ化した小説は、厚さと難解さに途中で挫折した私ですが、
この「坊っちゃん殺人事件」は薄くて心強いなあ。 文庫本で200ページ余りです。

パロディ作品のお約束ではありますが、文体が完全に坊っちゃんになりきっていて楽しいです。
漱石が書いている、というより坊っちゃん自身がしゃべっているような、堂に入った語り口。
しかもミステリとしてもかなり高レベルで、クライマックスまで一気読み。
面白いことに、解決のための手がかりや伏線は、ほとんど漱石の「坊っちゃん」に提示されています。
そう、「坊っちゃん」は言ってみれば「クリスティの小説の前半部分」だったのです。 なんてこった・・・。

終盤に至り、漱石の「坊っちゃん」が、思ってもみなかったような新しい姿を現すのは圧巻。
そうか、笑ってしまうような騒ぎの裏で、実はああいうことが行われていたのか・・・。
世界が反転するような感覚。


・・・と、ここまで書いたものの、やはり良心がうずきますね。
告白します。 カミングアウトします。

 じつは私は「坊っちゃん」を読んだことがありません。

ストーリーくらいは知っているんですが、きちんと読んだことは・・・・。
そういう私にも、とても面白かったこの小説、やはり傑作でしょう。
(05.5.28.記)


「本の感想小屋」へ

「整理戸棚」へ

「更新履歴」へ

HOMEへ