リュリ/歌劇「アルミード」(DVD)
(ウィリアム・クリスティ指揮 レザール・フロリサン)




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ジャン・バティスト・リュリ(1632〜1687)といえば、
フランス宮廷のダース・ベイダーというか、
バロック音楽界のアル・カポネというか、
歌劇の世界のロケット団というか(←なんか違う)
とにかく悪役ヒーローとして音楽史上でも指折りの存在。

イタリア生まれの貧しい粉屋の少年が、
音楽的才能と権謀術数を駆使して、フランス国王ルイ14世の側近となり、
ついにはフランス音楽界を一手に牛耳る最高権力者に。

ライバルを押しのけ蹴落とし、よっぽど恨まれたんでしょうね、暗殺されかけたこともあります。
多くの歌劇で台本を担当しながら、のちにケンカ別れしたモリエールが亡くなった時には、
「リュリに殺された」というまことしやかな噂が流れたほど(実際は病死)。

しかも精力絶倫で、女色・男色どちらもオーケーのスゴイ奴。
で、うっかりルイ14世お気に入りの小姓(♂)に手を出して、国王の不興を買ってしまう。

「こりゃいかん!」と、あわててルイ14世をたたえる「テ・デウム」を作曲、
演奏中に指揮棒で自分の足を突いた怪我が化膿し、敗血症で死んでしまいました(享年55歳)。
当時の指揮棒は太く長い棒で、床を叩いてテンポをとっていたのです。
死後には莫大な財産と5件の邸宅が残りました。


そんなラヴリーチャーミーな敵役・リュリの音楽、じつは本人の性格とは無関係に気高く格調高いのであります。
とくに、最後のオペラ・バレ「アルミード」は、リュリの最高傑作と言われています。

ストーリーは、「石油を掘って一発当ててやるぜ!」と砂漠を掘削する男、
ついに掘り当てたのはアルミニウムの鉱床。
「やったあ、これが『アルミ井戸』っ!」
・・・・・というお話ではなくて、

 魔力をもつ女王・アルミードは、宿敵である他国の将軍ルノーに魔法をかけ眠らせることに成功。
 ナイフで刺し殺そうとした瞬間、自分がルノーを愛していることに気づいてしまい、どうしても殺せない。
 仕方なくアルミードは、ルノーに自分を愛するよう魔法をかけ、城で官能の日々を送る。
 しかし考えてみれば、ルノーは何の技も使わずに自分を魅了したのに、自分がルノーを虜にできたのは魔法のおかげ。
 「こんなのは役に立たない勝利、偽りの宝だわ」と嘆くアルミード。
 ある日アルミードの留守を狙ってルノーの仲間が救出に訪れ、ルノーの魔法を解く。
 ルノーが去り、ひとり残されたアルミードは悲嘆にくれながら自らの命を絶つ。

というもの。
女が男を監禁飼育するという倒錯的でぶっ飛んだストーリーです。
以前全曲盤CDを買って、期待に胸を膨らませて聴いたところ

 ZZZZZZ・・・・・

・・・あまりにも格調高すぎて寝てしまいました。

うーん、ホントにこれ、最高傑作なんでしょうか。
「最後のオペラ」ってこととで、なんとなく傑作として言いつたえられてるだけなんじゃ?

と思っていたら、このたび2008年・パリのシャンゼリゼ劇場で行われた公演のDVDが発売されました。
クリスティ指揮、カーセン演出といえば、数々のバロック・オペラで目の覚めるような名演を残しているコンビ。
早速観てみました。

「アルミード」第5幕より「パッサカリア」
 

 「おお・・・・・・・・」

 
「古き言いつたえはまことであった!!」

「オペラ・バレ」ですから、やはり映像がないと真価はわからないのですね。
とくに振り付けが、現代風でありながらどこかバロック風というのか・・・、
踊りのことはよくわかりませんが、とにかく目が釘付け。

色彩あふれる幻想的な舞台、全編にただようむせかえるような官能性
出演者も見事にはまっていて、
とくに主役アルミードを演じるステファニー・ドゥストラック「肉食女子」ぶりには、
「ボクも食べられたい!」男子が続出かも。
さらに言えば、ルノー役のポール・アグニューがどうみても草食動物なのは狙っているとしか思えん。

 

絢爛たるバロック・オペラとバレエに酔い、
観客席をも巻き込む斬新な演出に感性をツンツン刺激され、
なるほど確かに大傑作でありました。


なお、リュリルイ14世を主人公にした、「王は踊る」(2000)という映画もあります。
こちらも豪華絢爛。
ルイ14世は踊りが大好きで、宴の場で自ら巧みな踊りを披露したことは有名。
それを見事にヴィジュアル化しています。
リュリのルイ14世に対する恋愛にも似た感情は、史実かどうかは不明ですが・・・。
素晴らしい映画です。

(11.10.1.)



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