ボリス・アクーニン/アキレス将軍暗殺事件
(岩波書店 2007年)
Amazon.co.jp : アキレス将軍暗殺事件
<ストーリー>
日本赴任を終え6年ぶりにモスクワに戻ったファンドーリン。
その朝,「アキレス」と呼ばれた国民的英雄の将軍がホテルの部屋で突然死した。
真相を追うなかで浮かびあがる,権力闘争の深い闇と恐るべき暗殺者の影──
必ず仕事をやり遂げる〈白い目をした〉殺し屋と,われらがヒーローの死闘が幕をあける!
「リヴァイアサン号殺人事件」が大変面白かったボリス・アクーニン。
同時に刊行された「アキレス将軍暗殺事件」も読んでみました。
若きロシア外交官ファンドーリンが活躍するシリーズです。
「リヴァイアサン号」が、いちおう本格推理小説の体裁を取っていたのに対し、本作はスパイ・サスペンス。
どうやら1作ごとに作風を変えるのがこの人のスタイルらしいです。
スタイルと言うか、すごい技術ですね。
それでも、ひとつの出来事を複数の視点から眺める技法は健在、物語に立体感を与えています。
第一部は、主人公ファンドーリンによる暗殺事件捜査。
6年間の日本勤務から戻ったばかりのファンドーリン、マサという日本人従者を従えています。
日本通のアクーニンですから、わかって書いてるんだとは思いますが・・・。 思うんですが・・・。
あのう、日本人は氷を浮かべた水風呂に入ったりしませんから。
精神統一のたびに墨を擦って習字を書きまくる人も普通はいないし、
部屋の壁を天井まで駆け上がったりもしませんからっ!
陰謀が渦巻き、誰が敵か味方かわからない状況は、ブライアン・フリーマントルのスパイ小説を思わせますが、
ファンドーリンとマサの掛け合いによる、ゆる〜い笑いが緊張感を和らげてくれます。
ひょっとしてマサ君、ファンドーリンよりキャラ立ってますね。
第二部は一転、暗殺者アキマスの視点から描かれます。
アクーニン、絶対「ゴルゴ13」を読んでいますね。
幼くして両親を惨殺され、伯父に暗殺のテクニックを教え込まれながら成長した、
誰も信じず、誰も愛さない孤独で虚無的な暗殺者、大変魅力的です。
もう主人公といっても過言ではないくらいの見事なダークヒーローぶり。
第一部とは文体までガラリと変わるんですが、これは原文でもそうなのでしょうか。
アキマス、絶対ファンドーリンよりキャラ立ってるぞ。
(それにしても主人公としてのファンドーリンって一体・・・)
第三部、ついに二人は対決します。
ラスト近く、瀕死のアキマスの述懐
「下から見あげると、人間というのはじつにばかげて見えるものだ。犬やミミズや虫けらは、われわれをこんなふうに見ているのか」(416ページ)
に、なぜか心を突かれました。
ファンドーリンとアキマス、そしてマサという国籍も立場も異なる3人の重要人物を配することで、
帝政ロシア末期をグローバルな視点から描くことに成功しており・・・と、マジメに感想書くとそうなるのかもしれませんが、
とにかく高品質の冒険活劇、読んで損なしです。
どうやらファンドーリンとアキマスには、第1作「アザゼル」以来の因縁があるらしく、これもまた読みたくなってしまいました。
(08.1.17.)