ボリス・アクーニン/リヴァイアサン号殺人事件
(沼野恭子 訳  岩波書店 2007年)



Amazon.co.jp : リヴァイアサン号殺人事件

<ストーリー>
一九世紀末パリ、大富豪と9人の使用人が屋敷で皆殺しにされた。
犯人が落とした「金のクジラのバッジ」は、
イギリスからインドへ向かう豪華客船リヴァイアサン号の乗員乗客に配られたもの。
それぞれいわくありげな乗客たち。見え隠れする「消えた秘宝」の謎。
そして起こる新たな殺人事件。
日本赴任の途上に船に乗りあわせたロシア外交官ファンドーリンは、
フランス警察のゴーシュ警部とともに事件に挑む。


豪華客船を舞台にしたミステリーといえば、クリスティー「ナイルに死す」を思い出します。映画も良かったなあ。
しかしこれは現代ロシアの作家が書いたミステリー、
しかも版元は岩波書店とくれば、「どんな小説だろう?」と興味津々。
読んでみたら、面白かった!!

巧みな語り口にこなれた訳文(上品なユーモアあり)。
国際色豊かな登場人物(イギリス人、フランス人、ロシア人、スイス人、そして日本人)を配し、
グローバルな視点から描かれる豪華客船という小さな人種のるつぼには、考えさせられることがたくさん。
しかしなによりもストーリーが面白い!
本格ミステリ度はそれほど高くありませんが、終盤で二転三転する真相には、ページを繰る手が止まりません。

5人の人物がかわるがわる語り手をつとめ、それがまた手紙や日記だったりもする凝りようですが、
同じ出来事でも違う人が見ると全く別の様相を呈します。
視点が多くても混乱することはなく、物語はすっきり&スムーズに進行、
この作者の技量、確かですね。
国籍によって異なる価値観や考え方も嫌味なく描かれ、ストーリーに深みを加えています。

日本人の青野銀太郎がなんともおいしい役どころ。サムライ、カッコイイぞ!
でも彼が詠むハイクは爆笑ものだったりします(わざとか?)
作者はもともと日本文学者、三島由紀夫をロシア語に翻訳したりもしているそうで、
ペンネームは日本語の「悪人」から来ているんだとか。
「日本社会では、モラルを支えるものは恥の意識なんです」(215ページ)といった一節には
「ほおー、なるほど」と感心しました(←おまえナニ人だ)

エンタテインメント小説として間違いなく一級品ですが、
各国民性への公平な視点、歴史への造詣の深さなど、ただ読み飛ばすにはもったいない名品、
すでに30カ国以上で翻訳されているのもうなずけます。

同時刊行の「アキレス将軍暗殺事件」も読まねば。

(08.1.5.)


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