森岡浩之/夢の樹が接げたなら
(ハヤカワ文庫、2002年)



Amazon.co.jp : 夢の樹が接げたなら


「星界の紋章」「星界の戦旗」で人気の(もっとも私はまだ読んでませんが・・)森岡浩之さんの短編集。
「たいへんレベルの高い、正統的なSF短編集」、という印象です。
かつて、クラークやアシモフやハインラインに胸躍らせたものの、
80年代からの「サイバーパンクSF」やらいうのには、ついていけなかった、私のような者には
とてもうれしく楽しい一冊でした。

標題作「夢の樹が接げたなら」は、独自言語の製作と習得が簡単にできるようになった社会が舞台。
人々は、「社内言語」や「家庭内言語」、あるいは恋人同士だけで通じる言語などを持ち
互いの連帯を深めています。
それらの言語を「設計」する
「言語デザイナー」という職業があり、主人公はそのはしくれ。
彼は、婚約者の弟が、アルバイトで、新開発の「まったく新しい言語」のモニターをしたところ、
重症の失語症に陥ったことを聞かされます。

ミステリー風の展開から、最後には「そもそも人間の認識能力は使用する言語に規定されるのか」とか、
「言語によって人間の脳が変化する可能性」などへ話が進んでゆき、
すぐれたSFならではの「センス・オブ・ワンダー」を存分に感じさせてくれました。

あと、設定をすべて語らず、読者の想像に任せることで物語に深みを与えている「普通の子供」
大富豪の猟奇的でグロテスクな計画を、さらりとした語り口で描いた「スパイス」
と言った秀作が並びます。

とくに印象に残ったのは、異星人に侵略された鎌倉時代の日本を舞台に、
新しい代官を迎えたある村の出来事を詩情豊かに描いた「代官」
若き代官、阿栂(おつが)のけなげさに、泣けました。

考えてみれば日本のSFを読んだのは久しぶりなのですが、堪能いたしましたね。
「星界」シリーズも読んでみようかな(表紙のイラストにちょっと抵抗が・・・)。

(02.4.24.記)


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