松井今朝子/吉原手引草
(幻冬舎 2007年)



Amazon.co.jp : 吉原手引草


なにか面白い本はないかとおっしゃる?
それなら、第137回直木賞を受賞したこの小説はいかがでございましょう。
恥ずかしながら手前も最近まで知らなかった作家さんでございますが、
いやあ、堪能いたしました。

吉原ゆかりの16人の人物の語りで構成されております。 地の文はありません。
「聞き手」はまず、引手茶屋の内儀の話を聞きに行きます。
吉原のことをいろいろ教えてほしいという頼みに、快く話してくれる内儀ですが、
花魁・葛城の名前が出たとたんに態度が一変。
「あの騒ぎでうちがどれだけ迷惑をこうむったか。 ああ、いま思い出しても涙が出る。
 (中略)それをまた今さら蒸し返しに来るやつがいようとは・・・ええ、思えば思うほど腹が立つ。
 おい、だれか塩を持っといで。」
(20ページ)
と、追い出されてしまいます。

次に話を聞きに行くのは妓楼の見世番
吉原を舞台にした奇妙な夫婦の物語は、なかなかに興味深いですが、
ここでも話を葛城のほうにもっていく「聞き手」。
「葛城花魁がいなくなってから、あの声をよく想い出すんだ」(34ページ)
・・・どうやら葛城は、今はもう吉原にはいないようでございます。

「十年に一人の花魁」と言われた葛城に何があったのか? 
「聞き手」はなんのために葛城のことを調べているのか?
章を追うごとに、徐々に見えてくる謎の女・葛城の姿。
それは最終章で突然くっきりと鮮やかな像を結びます。
「凄まじくも美しい、まさに夜叉の顔だった。」(248ページ)
「聞き手」の正体もようやく明らかになりますが、最後まで葛城本人は登場しません。

この手の小説、「ヒロインが姿を見せないヒロイン小説」とでも申しましょうか、
デュ・モーリアレベッカ 、アンドリュー・ガーブヒルダよ眠れ
有吉佐和子悪女について 、宮部みゆき火車 などの傑作がございます。
その系譜に新たに加わった、絢爛豪華な一作といえましょう。

もちろん、いきいきと描き出される吉原という異界の雰囲気も存分に味わっていただきたいもの。
「吉原手引草」というタイトル、伊達じゃあござんせん、
その独特な世界のありよう、理解不能な奇妙なしきたり、
ほとんどSFかと思うほどでございますが、手取り足取り教えてくれます。
著者が本当に書きたかったのは、ミステリ的な部分じゃなくて、こちらでしょうね。
これ1冊であなたも吉原通、あとはタイムマシンさえあれば、
すぐにでも吉原遊びができるというものでございますよ旦那。

(07.10.5)


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