エドワード・D・ホック/夜はわが友
(創元推理文庫 2001年)
今週も何冊かの本を読み散らかしましたが、一番面白かったのが、これです。
エドワード・D・ホックは「短編ミステリの名手」と言われているそうで、
以前「サム・ホーソーンの事件簿T」を読んだことがあります。
これは古きよきアメリカの田舎町で次々に起こる不可能犯罪を、開業医サム・ホーソーンが解決するシリーズ。
毎月のように密室殺人や死体消失事件が起こる田舎町というのも考えてみると怖いですが(住みたくないっ!)。
ホーソーン医師も村の人々も、あまり深く考えずにのどかに捜査してました。
レベルの高いトリックが惜しげもなく使われ、本格ミステリとして評価の高いシリーズです。
一方、この「夜はわが友」は、ホック初期の、シリーズものでない短編を21編も集めたもの。
1960年代の作品なので、飲酒運転・交通事故に対する認識の甘さなど、
古さを感じさせる部分もありますが、内容的には読み応えたっぷり。
本格テイストの作品もありますが、犯罪にいたる人間の心理をきめ細かく描いた、
クライム・ノヴェルっぽい作品に傑作が多いです。
特に印象に残ったものを・・・
「黄昏の雷鳴」
何不自由ない生活を送る男のもとに、かつての戦友が現れ、戦争中のある行為について男を脅迫する。
・・・・過去の汚点を脅迫された平凡な男が心理的に追い詰められていく過程がリアル。
ラストは肩透かしという見方もあるようですが、私はリアリズムとして評価したいです。
「みんなでピクニック」
罪を犯したものの心神喪失で無罪となった男が、旧友達のピクニックに突然顔を出したが。
・・・・男がどんな罪を犯したのかは暗示されるだけですが、
以前と同じように接しようとしながら、できることなら係わり合いになりたくないという友人達の態度が
これまたリアルで読ませます。
「虹色の転職」
社長と喧嘩して会社をやめた中年男。妻子を抱えながら再就職もままならず、あせる彼の前に、
ある荷物をトロントまで運べば5000ドル払うという話が・・・
・・・・ラストが決まっています。 救いのある終わり方なのもいいですね。
「初犯」
悪友に強盗話を持ちかけられた青年。「絶対大丈夫だ」という言葉にのせられて共犯になることを決意するが。
・・・・これまたラストが鮮やか。うまいですね〜。こういう終わり方は予想していませんでした。
登場人物たちの心の襞を描き出す巧みさは、30歳そこそこの作者の手になるとは信じられないくらい。
ホックを、パズルのようなミステリばかり書く人だと思っていた私、認識を新たにしました。
単純なミステリの範疇におさまらない、読み応えある短編の乱れ撃ち。
語り口が洒落ているためでしょうか、暗い話が多いわりに、読後感も悪くないです。
夜、酒など片手にゆっくりとページをめくりたい一冊。 酔わされますよ〜。
(03.6.22.記)