吉田修一/横道世之介(2009) 続 横道世之介(2019)
(文春文庫/中央公論社)

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<横道世之介>
1980年代後半、バブル真っただ中。大学進学のため長崎から上京した横道世之介・18歳。
自動車教習所に通い、アルバイトに精を出す、いわゆる普通の大学生だが、
愛すべき押しの弱さと、隠された芯の強さで、さまざまな出会いと笑いを引き寄せる。
友だちの結婚と出産、学園祭でのサンバ行進、お嬢様との恋愛、そして、カメラとの出会い・・・。
世之介と周囲の人々の80年代と20年後が交錯し、静かな感動が広がる。

<続・横道世之介>
1994年、バブル最後の売り手市場に乗り遅れ、バイトとパチンコで食いつなぐ、横道世之介・24歳。
いわゆる人生のダメな時期にあるのだが、なぜか彼の周りには笑顔が絶えない。
鮨職人を目指す女友達、大学時代からの親友、美人のヤンママとその息子。
そして27年後、オリンピックに沸く東京で、小さな奇跡が生まれる。 


なんと10年もたって続編が出るとは・・・

 吉田修一「横道世之介」

おもわず前作から読み返し、勢いで続編もイッキ読み。

いわゆる「聖愚者もの」と言っていいんですかね。
現代版「イワンの馬鹿」と呼びたくなりますが、じつは世之介自身は成功も出世もしません。
首尾一貫してぱっとしません。
のほほんと流されるままの、お人よし極楽トンボです。

一方、彼とかかわりを持った人々は、世之介と出会うことでちょっとだけ人生が変わり、結果的に自分の道を見つけます。
触媒のような男と言うべきか、それともただの反面教師?

読み終わって考えると、宮沢賢治の「雨ニモマケズ」を地で行くような主人公なのですが、
読んでいる間はチャランポランで優柔不断なダメ男にしか見えません。
そこがいいんですけどね。

吉田修一の文章は流れるような流暢さで、いくらでも読めちゃいます。
のど越しさわやかな冷たいビールがクイクイと流れ込んでくるような感じです。
実際、天気の良い休日に、ビール片手に読むのに最適な小説といえましょう。
というと、軽く読めて後になんにも残らない小説のようですが、違います。
読む人の心に、必ず何らかの爪痕を残すはず。
読む前と読んだあとでは、ちょっとだけ違う自分になっているはずです。
ちょうど、世之介に出会った後のように。

正編から続編へのつながりもじつに自然。
世之介以外の登場人物はすべて違っているのに、まったく違和感なく物語に溶け込めました。

(2019.05.15.)

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