ウィルキー・コリンズ/白衣の女(1860)
(中島賢二・訳 岩波文庫 1996年)
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160年も前(1860年)の小説、それも全3巻の大長編ですが、なにこれ圧倒的に面白い、読みやすい!
このあいだからディケンズの「荒涼館」を読みはじめ、あまりの難渋さに挫折しかけていたので、この読みやすさは一服の清涼剤。
時代がかった言い回しも、そういうものとして読めば楽しみポイントのひとつです。
ウィルキー・コリンズ(1824-89)は、「月長石」(1868)が有名ですが、「白衣の女」も出版当時から大人気。
時の大蔵大臣グッドストーンはこの本を読みふけってオペラの約束をすっぽかしたという逸話があります。
タイトルは「白衣の女」ですが、白衣の女は主人公ではなく中盤までは謎の存在。
主人公は、貧しい画家ウォルターと名家フェアリー家の令嬢ローラ。
ふたりは惹かれあいますが、ローラには亡き父親が決めた許嫁者・パーシヴァル・グライド卿がおり、二人は引き裂かれます。
しかしパーシヴァルはフェアリー家の財産だけが目当ての腹黒い男だった!
ローラを亡き者にしてでも財産を独り占めしようと画策するパーシヴァルに、ウォルターは打ち勝つことができるのか!?
なお「白衣の女」といってもナースものではありませんので念のため。
ヒロインのローラは運命に翻弄されるやや受け身な女性ですが、彼女の義理の姉マリアンが知恵と勇気と行動力で凛々しさ満点。
ウォルターとともにパーシヴァル卿と対峙し一歩も引きません。
パーシヴァル卿を影であやつるフォスコ伯爵もマリアンには一目置き、彼女に惹かれてゆきます。
このフォスコ伯爵、頭は切れるし弁舌は巧みだし文化芸術に通じているしお洒落だし、悪役ながら「黒い魅力」を存分に発揮するナイスなキャラクター、ただしデブ。
個人的に本作品のMVPはフォスコ伯爵だと思います、デブだけど。
全体としてはそれほどミステリって感じではないので、「英国ミステリの元祖」と言われても「そうかなあ」と思っちゃいますが、
恋愛メロドラマとサスペンスがうまいこと溶け合って良い味をかもし出し、リーダビリティー抜群。
ところでディケンズとコリンズには深い縁がありまして、「白衣の女」はそもそもディケンズが創刊した雑誌に連載されました。
これでコリンズは大人気となり、イギリスの国民的作家に。
そしてコリンズの弟はディケンズの娘と結婚したそうです。
とっても面白い小説ですが、ひとつ不満なのは文庫のカバー絵。
地味で暗いです、辛気臭いです、味も素っ気もありません。
岩波書店って商売気がないなあ・・・・。
もうちょっとなんとかしたほうが手に取ってもらいやすいと思うのですが。
白衣をまとった美女の絵でも載せるとか・・・・あ、決してナースものではありませんので念のため(←くどい)。
さてディケンズの「荒涼館」、再チャレンジしてみようかな。
(2020.04.18.)