吉村昭/わたしの流儀
(新潮文庫 2001年)



Amazon.co.jp : わたしの流儀 (新潮文庫)


先日、近所の紀伊国屋書店をぶらぶら回遊していると、吉村昭(1927〜2006)の文庫本をたくさん平積みにしたコーナーを発見。
「なぜ?」と思ったら、今年は没後10周年なのだそうです。

吉村昭の本で読んだことがあるのは「羆嵐」「三陸海岸大津波」
私の感想は、

 「並みのホラー小説より怖え!」

以来、私の中で吉村昭は「怖い人」に認定され、敬して遠ざけておりました。
しかし、この人の本領はじつは時代小説なのです。
それらを読まずに「怖い人」なんて言っちゃ申し訳ないですね。
平積みコーナーを前にしばし熟考、読みやすそうなものを何冊か買って帰りました。

まず読んだのが「破船」(薄かったので読みやすいかなと・・・)。
嵐の夜に海辺で火を焚き、近づく船を坐礁させ、その積荷を奪い取る――僻地の貧しい漁村に伝わるサバイバルのための異様な風習“お船様"を描いた長編です。
私の感想は

 「並みのホラー小説の倍以上怖ええぇ!」

やっぱり怖いやないかい!!

まあ、そのあと読んだ「敵討」は怖くなくて、とても面白かったんですけどね(「破船」も面白いことは保証つきです、念のため)。
現在「生麦事件」を読んでます、「生麦生米生卵」という格言のもとになった事件ですね(←違う)。

で、小説と一緒にエッセイも買ったんですが、じつはこれが最高に楽しかったのです。

 吉村昭/わたしの流儀

日常の小さなできごとを軽い調子で書くだけで、どうしてこんなに面白いの?
しかも文章は真面目で几帳面。
1編が2〜3ページと短いので読みやすく、随所に織り交ぜられる巧まざるギャグも味わい深い。
いかにも「昭和の頑固おやじ」みたいなところも逆に微笑ましく、磯野波平氏的親しみやすさが匂います。
一流作家の至芸を堪能しました。

 「過去に書店で私の単行本を買う人を二度見た。一人は三十歳ほどの会社勤めをしているらしい男性で、他は六十年輩の白髪の人であった。
  私は、体をかたくして、茫然とその人たちが勘定場でお金をはらうのを見つめていた。
  羞恥に似た感情で、そんなものなら私の家にありますから差し上げます、と声をかけたいような思いであった。」
(43ページ)

(2016.8.26.)


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