渡部昇一+渡部玄一/音楽のある知的生活
(PHPエル新書、2002年)




Amazon.co.jp : 音楽のある知的生活


ずいぶんスノビッシュなというか意味不明なタイトルの本です。
よく見ると著者の片割れは、かつて「知的生活の方法」(講談社新書)というベストセラーを書かれた、
渡部昇一さんではないですか。
それでこのタイトルなんですね、いちおう納得ですが、
もう少しセンスのいいタイトルだったらな〜、と思いつつ、結局買ってしまいました。
「知的生活の方法」も、むかし確かに読んだのですが、 内容は・・・完全に忘れているぞ〜。

もう一人の著者、渡部玄一さんは、昇一氏の息子さん。
1963年生まれで、現在、読売日本交響楽団のチェリストです。
親子リレーエッセイの形式で、クラシック音楽について興味深い話を紡いでゆきます。

昇一氏自身は若い頃から、音楽にはほとんど興味がなかったのですが、
縁あって結婚した奥様が、桐朋学園音楽科の1期生であったために(小澤征爾の同期生!)、
いやおうなく家庭に音楽が入り込んできて、
気が付くと3人の子供が全員音楽家になってしまい、経済的に大変な思いをされたそうです。
音楽家を作るのには、莫大なお金がかかるんですね。

その息子の玄一さんの文章がとても面白いです。
お父さんの文章も明快で読みやすいですが、玄一さんのは、楽しくて笑えます。
特に子供の頃の練習の思い出話は爆笑もの
あと、ジュリアード留学時代の話。チェロのハーヴィー・シャピロー教授、最高です。

もちろん厳しい話もいろいろ。
「本当に音楽が好きで、音楽とともにあることが何よりの喜びという人以外は、
 演奏家を目指すのは割に合わないからやめたほうが良いと思う。
 お金と名誉だったら、もっと他に効率の良い道があるような気がする。
 (中略) 世間を見渡しても活躍する場がなかなかなかったりする。
 音楽をやること自体が目的でなかった人には、
 これまで人生の楽しいことを全部犠牲にしてやってきたのに、なんだよ、
 という怨みの気持ちが募ってくるだろう」
 (47ページ)

・・・これが現代の音楽家の実情らしいですね。
音楽で食べていくのは、とても大変ということが、実感を込めて語られます。

さて、音楽とは直接関係ないのですが、本書の終わりのほうに昇一氏が面白い話を書いておられます。
アメリカ政府に、将来相続税をタダにしようという動きがある、と言うのです。
「アメリカで相続税がなくなったら、どうなるか。世界中の金持ちはアメリカの国籍を求めて殺到するだろう。(中略)
 そうしてアメリカに、お金を稼げる才覚と資産を持った世界中のお金持ちが集まることになる。
 したがって、これはある種のアメリカの国際戦略だと、私は見ている。」
 (175ページ)

おお、私もすぐにアメリカに移住しなくては・・・ (ウソウソ)、
でも確かに日本からもお金持ちが相当逃げ出してゆきそうですね。
この話、ほんとかな〜?

「知的生活」というタイトルがそぐわない気もするほどで、全然気取った本ではなかったです。
音楽について、芸術について、笑いながら意外なほど深く考える機会を与えてくれました。

はっきり言って名著です。

(02.8.24.記)


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