久坂部羊/嗤う名医
(集英社 2014)



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天才的心臓外科医の隠された顔、最高の治療の為に自分にも患者にも妥協を許さない名医、他人の嘘を見抜けてしまう医者。
頭蓋骨をこよなく愛する、解剖学講座の技術員。
現役の医師が皮肉を交えて医療に携わる人間を描く短編集。


医者で作家って、古今東西枚挙にいとまがないほどで、
アーサー・コナン・ドイルは自分の医院が流行らなくてホームズものを書き始めた、というのは有名な話。

日本でも、森鴎外、加賀乙彦、北杜夫、渡辺淳一、手塚治虫(?)、海堂尊など、
これまた綺羅星のごとく有名どころが並びます。
そんな「医者作家」として、いま一番精力的ではないかと思うのが、久坂部羊

まだ数冊しか読んでいませんが、作品のほとんどが医療小説で、
医療関係者でなければ書けない迫真の描写が半端ないです。

 じつはいちばん感銘を受けたのは、末期がん患者と主治医の確執と和解を、双方の立場からリアリティたっぷりに描いた(でもとっても読みやすい)「悪医」 (2013)。
 患者の気持ちも医者の立場も丁寧に書き込まれ、「どっちもわかる」と思ってしまいました。
 このHPでも取り上げようとしたのですが、私なんぞがおちゃらけた感想を書いては申し訳ない作品であり、結局断念しました。

「嗤う名医」は比較的軽く読める短編集。
すべて医療界が舞台ですが、ミステリ・タッチ、ホラー風、グロテスク、ユーモアありと、バラエティ豊か。
基本シニカルで、医療界の裏側を告発とは言わないまでもおちょくるトーンで一貫しています。
でもちょっと怖くもなります。

全6編のなかで、特に印象に残ったものをご紹介。

「寝たきりの殺意」
まだ68歳なのに脊柱管狭窄症で歩行不能になってしまった男性。
嫁の介護に不満を持つ彼は、寝たきりの身ながら、嫁に殺意を抱き・・・。
ミステリ・タッチの名編。
途中で「これはこういうことだな」とオチを予想したんですが、さらにもうひとひねりありました。

「愛ドクロ」
朝から晩まで骨標本を扱っているうちに、人を見ると頭蓋骨が透視できるようになった解剖学講座の技術員。
まるで歩くCTスキャンです。
コミカルなタッチですが、美しい頭蓋骨に魅せられ、探し求める主人公はほとんどホラー。

「嘘はキライ」
なぜか他人の嘘を見抜くことができる医師・水島。
その能力を見込まれ、同期の友人から教授選への協力を依頼されるが・・・。
ドロドロした「白い巨塔」的世界ですが、コミカルに描かれるのが救いでした。
しかし他人の嘘が全部わかっちゃったら、生きていくの大変だなあ。

(2015.02.22.)

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