フレデリック・フォーサイス/戦士たちの挽歌
(角川書店、単行本、2002年)




Amazon.co.jp : 戦士たちの挽歌―Forsyth Collection〈1〉 (角川文庫)

フレデリック・フォーサイスと聞くと、私なんかは、「なつかし〜」と、思ってしまいます。
「ジャッカルの日」 「オデッサ・ファイル」 「悪魔の選択」 ・・・
すべてその年のベストセラーになりました。
しかしスパイ小説、謀略小説作家の例にもれず、冷戦が終結してからは、
以前ほど名前を聞かなくなりましたが、作品はコンスタントに発表しているようです。
この「戦士たちの挽歌」は、フォーサイス2001年の最新作です。
4つの短編と1つの中編が収録されています。

「戦士たちの挽歌」
ロンドンで一人の中年男が、二人組のならず者に殴り殺されました。
以前から盗みや傷害を繰り返していた街のチンピラコンビがすぐに逮捕され、
目撃者の証言からも、彼らが犯人に間違いありません。
ところが高名な勅選弁護士が、気まぐれから彼らの国選弁護人を引き受け、見事な弁論を展開、
あろうことか無罪放免にしてしまいます。 しかし・・・・
・・・・途中からオチが見えちゃうんですが、まずは快調な滑り出し

「競売者のゲーム」
絵画オークション会社の社員、ベニーは、
持ち込まれた一見無価値な絵が、ルネサンス期の傑作であることに気付きますが、
上司の罠に嵌められ、絵をかすめ取られた上に会社を追われてしまいます。
ベニーは、コンピューターのプロである恋人の協力を得て、復讐計画を練ります。
・・・・正統派コン・ゲーム小説。 美術品オークションにも詳しくなれます。

「奇跡の値段」
第二次大戦中、イタリアの野戦病院に突然現れ、
不思議な力で、敵味方の区別なく、多くの人々の命を救った謎の看護婦の正体は? 
・・・・結末が皮肉な一篇。 しかし物語はきわめて美しい。 上質のファンタジーです。

「囮たちの掟」
バンコク発ロンドン着のジャンボジェット。
その乗客の中にヘロインの運び屋がいるという情報を得た、麻薬捜査官バトラーは、空港で張り込みますが・・・・
・・・・誰が本当の運び屋か、という謎で引っ張っていく一編。
   ちょっと容疑者が少なすぎるかも。
   それでもこれだけのサプライズ・エンディングに持っていく、フォーサイスの手腕はお見事。

「時をこえる風」
1876年のアメリカ西部、カスター将軍率いる騎兵隊が、一人のインディアンの少女を捕虜にします。
若き兵士ベン・クレイグは、少女に同情し、こっそり逃がしてやるのですが、
すぐにばれてしまい、将軍に絞首刑を宣告されます。
いよいよ明日処刑というとき、騎兵隊はインディアンの大部隊に遭遇、
カスター将軍は戦死、騎兵隊もほぼ全滅してしまいます(「リトル・ビッグホーンの戦い」という、有名な史実)。
運良く生き残ったベンは、捕虜となり、インディアン部落に連れてゆかれますが、
そこで逃がしてやった少女「ささやく風」と再会、許されてインディアンとともに暮らすようになります。
やがて、ベンと「ささやく風」は、恋に落ちます。
しかし「ささやく風」には、すでに父親の決めた許婚者が。
ついにふたりは、部落から脱走するのですが・・・。
・・・・最後に収められた中編(190ページほど)。傑作です。  
   途中までは絵に書いたようなボーイ・ミーツ・ガール・ストーリーで、
   ディズニー映画の「ポカホンタス」(ご存じないかな?)みたいですが、
   やがて物語は時をこえ、大きなスケールで読者を魅了します。
   フォーサイスらしいアクションシーンもふんだんに盛り込まれ、
   骨太のラヴ・ストーリーとして見事な完結を迎えます。
   大長編にしようと思えばできる話ですが、あえて中編にまとめたことで、ストーリーもひきしまっています。
   じつに映画向けの話ですね(ダスティン・ホフマン主演の「卒業」のパロディとしか思えないシーンあり)。
   そのうちスピルバーグが映画化するかも。
     
フォーサイス健在を強力にアピールしてくれる一冊。 
かつてフォーサイスを楽しんだ人も、「ジャッカルの日」の名前くらいしか知らない人も、楽しく読めますよ、きっと。
とくに最後の「時をこえる風」は、女性受けしそう。 フォーサイスって、ラヴ・ストーリーも書けるんですね。

(02.7.10.記)



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