ジェイムズ・P・ホーガン/星を継ぐもの(1977年)
(創元推理文庫)



Amazon.co.jp : 星を継ぐもの


<ストーリー>
2027年、月面で、宇宙服をまとった男の遺体が発見されます。
月面基地にはとくに行方不明者もおらず、遺体は「チャーリー」と名づけられ身元不明のまま地球に送られます。
やがて驚くべき事実が明らかになります。 
放射性同位元素法で調べたところ、「チャーリー」はなんと5万年前に死亡していたのです。
この謎に挑む天才的原子物理学者、ヴィクター・ハントが最後にたどりついた解答は・・・?


SF ですが、同時に壮大なスケールのミステリでもあります。
月面で発見された5万年前の遺体。 しかも超高性能な宇宙服をまとっています。
これが人間と似ても似つかぬ生物ならば、異星からのエイリアンということになりますが、
この「チャーリー」、身体の構造からDNA組成にいたるまで、人類と全く同じです。
つまり、地球上で進化した人間ということになります。
しかし地球に、5万年前に高度な科学文明が栄えていて、人類は月まで到達していた、とも思えません。
とびきりの不可能状況です。

この謎が、科学的かつ論理的に解決してゆくのですが、解答はまさに太陽系を股にかけた大トリック。
(あえて「トリック」という言い方をさせていただきます)
その美しさには、本格ミステリ・ファンなら鳥肌が立つことでしょう。
(ちなみにタイム・マシンじゃありませんよ)
最後は、人類の起源と未来に思いをはせる感動的なクライマックスが待っています。

SF としても、実に楽しめます。
次々に出てくる最新機器や技術に関する記述では、作者ホーガン氏は嬉々として、
メインのストーリーとは関係なさそうなところまで細かく書き込みます。
この人、かなりの理系おたくですね。
冒頭近く、旅客機の中からTV電話でレンタ・エアカー会社を呼び出し、
端末上でエアカーを予約してカードで決済するシーンは、インターネット時代をかなりいいところまで予見しています。
ブロンドの美女としゃれた会話を楽しみながらエアカーを予約するところまでは、われわれはまだ残念ながら到達していませんが。

その反面、人物造形はかなりありきたり。
主人公の天才科学者ヴィクター・ハントは、謎を解くためのマシンのような存在で、人間的深みはありません。
むしろハントと対立する気難しい生物学者、ダンチェッカーのほうが味わいがありますが、
謎を解くうちに、しだいにハントと強い友情で結ばれてゆくというのは、ありがちなパターン。
女性登場人物も、美人秘書がひとり出てきますが単なるお飾りです。

しかし、この小説の価値がそれで下がるわけではありません。
むしろ謎解きに焦点を絞るために、人物に関してはあえて書き込んでいない、とも考えられますね。
深みのある人間の話が読みたければ純文学を読めばよいのです。
魅力的な謎に美しい解答、宇宙へのロマンを存分に感じさせてくれるこの作品は、
SF ファン、ミステリ・ファンの心をいつまでもとらえて止まない永遠の名作でしょう。

なお、ホーガン氏、この作品の好評に応えて、「ガニメデの優しい巨人」「巨人たちの星」と、続編を二つ発表しています。
これらは第1作のキャラがひきつづき活躍するものの、一種スペース・オペラ的展開になっていくので、
「星を継ぐもの」とはかなり雰囲気が違っています。

(02.10.31.記)


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