グレッグ・モーテンソン&ディヴィッド・オリヴァー・レーリン
/スリー・カップス・オブ・ティー
Greg Mortenson&David Oliver Relin/Three Cups of Tea
(サンクチュアリ出版 2010年)



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あたふたする日々が続いて、新しい記事が書けませんでした。

「いやー、しんどいぞー、忙しいぞー(←要領が悪いだけという気もする)
 でもそれなりにがんばってるよね、さて自分にご褒美、きょうは発泡酒でなくビールだ!」

などと傲慢にも、うそぶいていたのですが、
世間には私の数千倍がんばってる超人的な人がいることを、このノン・フィクションを読んで思い知らされました。

「こ、これはビール飲んで浮かれてる場合じゃないぜ!」(←ビール片手に読みながら言ってますが?)


 著者で主人公のグレッグ・モーテンソンは、アメリカ人登山家。
 1993年にK2登頂をめざしたものの、悪天候にはばまれ失敗。
 そのうえ下山途中でパーティーからはぐれてしまいますが、7日後に偶然、パキスタンコルフェという村にたどりつき、命拾いします。

 せいいっぱいもてなしてくれる村人と片言で会話するうち、
 村には100人もの子供がいるのに学校がなく、先生もいないことを知ります。

 「命を救ってもらったお返しに、村に学校を建てます!」
 と約束するグレッグ。

 しかしグレッグは、決して金持ちではありません。
 看護師の資格を持つ彼はこれまで、カリフォルニアで臨時雇い看護師としてしばらく働いては、
 たまったお金で山に登る、という生活を送ってきたので、どちらかというと無一文に近い。

 それでもめげることなく、各界の著名人に寄付をつのる手紙を送り付けたところ(その数580通)
 ある実業家がポンと学校1軒ぶんのお金を寄付してくれます。
 「これで学校が建てられる!」と喜ぶグレッグ。
 しかしそれは、新たな困難の始まりでもありました・・・。


いやー、よくこんなことできるなあ。
学校を作る場所はパキスタンの、それも辺境。
文化も習慣も宗教も異なるイスラム圏です。
アメリカ人なので胡散臭い目で見られ、スキあらば金をかすめ取ろうとする怪しげな連中もわんさかいます。
苦労して手に入れた学校の資材を奪われそうになったり、保守的な宗教指導者から脅迫されたりもします。


 それでも約束通りコルフェの村に学校を建てると息つく暇もなく、
 「うちの村にも学校を作って!」という声が周囲の村からわきおこります。
 グレッグはそれらの願いに答えるため、NPO法人を設立し、パキスタンの僻地につぎつぎ学校を建設、
 ついには勢い余って隣のアフガニスタンにまで侵攻じゃなかった進出してしまいます。

 アフガニスタンではイスラム原理主義組織に捕えられ、監禁されたりもしますが、
 おどろいたことにそれでも活動を続け、現在までに50以上の学校を建てたそうです。


すごい人ですが、本書から受ける印象は「偉人」というよりは「子供のような人」
学校を作る活動が楽しくて面白くてたまらない、という気持ちが伝わってきます。
あと滅茶苦茶に楽天的というか、はっきり言えば能天気(でないとできませんね、こんなこと)
約束の時間をほとんど守らないなど、ルーズなところもあり、共著者のレーリンはかなりイラッと来たそう。
しかしその人柄は不思議な魅力に満ちていて、
「グレッグと出会った人たちは、彼の軌道に引き寄せられてしまう」(559ページ)んだとか。
周囲の人を巻き込み、NPOは大きくなり、各方面からの寄付も増えてゆきます。


 NYの同時多発テロ以降も彼の活動はやみません。
 「テロとの戦いに有効なのはミサイルより教育だ」という信念。
 しかしアメリカ的教育をするのではなくて、

 ・パキスタンの公立学校と全く同じ科目を教える。
 ・保守的な宗教指導者に“反イスラム的”というレッテルをはられかねない科目は含めない
(学校の閉鎖につながるので)
 ・過激なイスラム原理主義的思想を教え込まないこと 
(361ページ)

 つまりバランスの取れた教育を受けさせる、というのがポリシーです。
 印象に残ったフレーズをいくつか

 「テロが起こるのは、どこかの集団が“アメリカ人を憎むことに決定した”からではありません。
 子供のころから、明るい未来を思い描けないからです。ほかに生きのびる手段が見つからないからです」
(495ページ)

 「このミサイルは、1発84万ドルほどでしょうか。それだけのお金があれば、学校を何十校も建てて、
 何万人もの生徒に、過激ではない、バランスの取れた教育を、数世代にわたって受けてもらうことができるんです。
 どちらのほうが、われわれの安全につながると思われますか?」
(499ページ)

 「オサマ・ビンラディンを生んだのは、パキスタンでも、アフガニスタンでもない、アメリカだ。
 アメリカのおかげで、いまではどの家にもオサマがいる」
(520ページ)


うーむ、この人、いつかノーベル平和賞とるんじゃないでしょうか。
私もビールやめて発泡酒にして、浮いたお金を寄付しようかな。
え、発泡酒もやめて水道水にしろ? そ、それだけはごかんべんを・・・。

(10.10.20.)


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