イーヴリン・ウォー/ご遺体(1948)
Evelyn Waugh/The Loved One
(小林章夫・訳 光文社古典新訳文庫 2013年)



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<ストーリー>
ハリウッドで暮らす英国出身の若き詩人デニスは、
世話になった老詩人の葬儀の手配に、人気の葬儀社「囁きの園」を訪れる。
そこでデニスはコスメ係の美女エイメにひとめぼれ。
いっぽう彼女の上司である天才的遺体修復師ジョイボーイも、
かねてからエイメに思いを寄せていた。



「神経のタフな読者へ」
イーヴリン・ウォー


イギリスの男性作家、イーヴリン・ウォー(1903〜1966)の小説「ご遺体」(The Loved One)。

なんというか、きわめて冒涜的で罰当り、ビター・ブラック・ユーモアがダダ漏れ全開の小説です。
アメリカでは、エンバーミングという遺体を修復する職業が確立していることは知ってましたが、
それを含むアメリカの葬儀産業を徹底的に皮肉り、笑いのめします。
とくに天才修復師ジョイボーイにより「美しく」修復された老詩人の遺体の描写(94ページ)は、
並みのホラーやスプラッタより怖くて、しかも笑えます(ひきつり笑い)。

1940年代に、「死」をこのように描くなんて!
いや、第二次世界大戦の記憶も生々しい時代だからこそ、このような描きかたになったのでしょうか。
死者に対する敬意がまったく感じられないことを、不快に思う方もあるかもしれません。
それでいて著者イーヴリン・ウォー、敬虔なカトリック教徒だったと言うのですから、いやはや複雑怪奇。

登場人物は全員かなり変な奴ですが、とりあえずエイメはお気の毒(この娘もやっぱり変だけど)
そして終盤のブラックで急転直下な展開には口をあんぐり。
「おいおいおい、なんでそうなるのよ!」と突っ込みながらも、ラスト近くの1行で思わず爆笑。

 「・・・今宵天国で尻尾を振っています」(205ページ)

じょ、冗談きつい・・・・。 なんというブラックさ、冷酷なユーモア。
初期の筒井康隆に通じるものがあるような気さえします。

ちなみにこの小説、おおむね好評をもって迎えられたそうです(イギリスの読者は懐が深いなあ)
ただしアメリカの葬儀業界から苦情が出たため、
ウォーは万一、自分がアメリカで死んだら、葬儀をしてもらえないのではないかと心配したそうです (めでたく? イギリスにて死去)。

良くも悪くも、一度読んだら忘れられない小説。
それってやっぱり傑作ってこと?

(2013.3.23.)

「まるで結婚式のように見えたのよ。任せてもらえば、完璧な仕上がり。
たとえ原子爆弾の上に座って死んだとしても、人前に出せるようにするわ」

(62ページ)



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