塩田武士/女神のタクト
(講談社 2011年)




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30歳にして職と男を失った矢吹明菜
旅先で出会った老人に「アルバイトせえへんか?」と誘われる。
そこは潰れかけのオーケストラ、オルケルトラ神戸
たよりない指揮者と、あまりに濃いメンバー。
しかし明菜は、そこで封印していた「音楽」への思いを呼びさまされ・・・。


先日、どこかのネット上で

 「どんな楽器も1万時間練習すればモノになる」
 
と書いてあるのを読んで、「なるほどなるほど」と思った私。
しかし考えると1万時間って・・・。

いま、毎日短時間でもいいからチェロに触ることを習慣にしていまして、
まずまず(といっても週5日くらい)達成できていますが、練習時間は・・・。
平日は1時間も弾ければチョー御の字、15分なんて日もありますから、年間で合計300時間いってないです。

 そうなると、1万時間までは・・・・・・

30年でも足りないじゃあーりましぇんかーマイケルシェンカー!!(←これ昔流行ったな)

真面目な音大生みたいに休日もなく1日8時間練習すれば、
1年で3000時間、3〜4年で1万時間いくかもしれませんが、
働きながら趣味でやってる人間には非現実的。

まあいいのです楽しく弾ければ、下手糞でも、音はずれても、妻に迷惑がられても、娘に「勉強の邪魔!」と言われても(・・・なんか悲しくなってきた)

ひるがえって本業のことを考えてみました。
私の仕事は基本的に接客・サービス業ですが、ある程度の技術と熟練が要求され、頭もそれなりに使います。
週に5日以上、1日8時間以上、早朝・休日出勤にもめげず、サービス残業にもめげず、
転職もせず、どうにかこうにか25年ちょっと働いてます。
ざっと計算してみると、年間2500時間は働いていると思われます。
それを25年だから・・・・・・6万時間超えてる!?

 6万時間やってもこの程度なのか仕事人としての私は・・・レベル低っ!(・・・さらに悲しくなってきた)

私に関しては、かりにチェロを10万時間練習しても、全然モノにならないかも知れないと思った春の宵でありました。


さて、先日読んだ塩田武士「女神のタクト」

このタイトル「神様のカルテ」のパクリじゃねーの!? 
と鼻で笑いつつ、なにか惹かれるものを感じて読み始めたらどうしてどうして、
勢いのある物語と、涙と笑いの配分絶妙な語り口にイッキ読み。

職なし宿なしの30女、しかしなぜか態度はデカくてすぐ手が出るヒロイン矢吹明菜
ひょんなことから潰れかけのオーケストラの事務職員となり、演奏会を成功に導くというストーリー。
音楽小説数々あれど、オケの事務員を主人公に据えた作品はお初では?
しかもこれがオーケストラ運営やコンサート開催の裏事情・ウンチク満載でじつに楽しいです。
登場人物たちの会話も漫才みたいで、お笑いレベルかなり高くて、
音楽小説も裾野が広がったものですね・・・と、呆れ 感心しました。。

選曲も凝ってます。
エルガー「ニムロッド」(エニグマ変奏曲より)という渋いところを突いてくるかと思えば、
クラシック音楽小説なのに、石川さゆり「天城越え」が重要な役割を果たすのがまた味わい深い。

クライマックスのラフマニノフ「ピアノ協奏曲第3番」の演奏シーンは、
冷静に考えると「絶対ありえねー!」な世界ですが、
それまでの展開が十分ハチャメチャなため、すんなり許せてしまいます(←褒めてます)

スカッとしてちょっとホロッとして、文句なしで楽しめる音楽小説&仕事小説。
ベストセラー「神様のカルテ」に勝るとも劣らない傑作として、私の中にめでたくランクインしました。
しかしタイトル似すぎ・・・。

(2011.3.10.)


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