スウェーリンク/鍵盤楽曲集
(アンドレア・ヴィヴァネット:ピアノ 2023録音)
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1970年代まで、鍵盤楽曲は作曲年代に関係なくピアノで弾くのが普通でした。
ブランデンブルク協奏曲第5番ですらたまにグランド・ピアノを使ってたほど。
しかし1980年代から「古楽器によるピリオド演奏」ブームがはじまり、
バロック時代の曲はピアノではなくチェンバロで弾くことが望ましい、弾くべきだ、いや弾かねばならんという風潮に。
そして21世紀になると、バロックをグランド・ピアノで弾くのは「野蛮な行為」と後ろ指をさされるように。
ぎりぎり許されるのはバッハとスカルラッティまで。
それより古い曲をグランド・ピアノで弾こうものならピアニストは村八分、SNSは炎上、古楽器警察に身柄を拘束され厳しい尋問を受けるという噂です
(嘘です)。
さて、ヤン・ピーテルスゾーン・スウェーリンク(1562〜1621)というアムステルダム生まれの作曲家がいます。
ルネサンス末期の重要作曲家で、北ドイツ鍵盤音楽の伝統を作り上げ、バロックへの橋渡しをしたチョー偉い人。
そのスウェーリンクの曲をグランド・ピアノで弾きまくったCDです!
・・・いや、それはいかんでしょ。
バッハより100年以上前に生まれた人ですよ、ルネサンスですよ、バロック以前ですよ。
それをグランド・ピアノで弾くなんて言語道断歩行者横断、極悪非道の論外魔境ではありましぇんかーマイケルシェンカー!
こういう曲はチェンバロとかパイプ・オルガンの古雅な響きに包まれながら400年前に思いをはせなくてはいけまシェーンカムバック!
どうせ妙ちきりんな代物でしょうが、いちおう聴いてみるとしますか。
第9旋法によるトッカータ SwWV 297
・・・メチャクチャええやん!!
芝居っ気も凝った仕掛けもない音楽ですが、
シンプルな旋律につけられた響きの色が、呆れるほどにキマっています。
ピアニスト アンドレア・ヴィヴァネットの柔軟でセンシティブな感性がきらめいています。
「エコー・ファンタジア」は上と下の声部が同じ音型でこだまのように掛け合いながら進行する曲。
両手が対話をしているかのような面白さがあります。
エコー・ファンタジア SwWV 253
当時の流行歌を主題にした変奏曲もあります。
オクターヴ下降するほの暗いメロディを装飾しながら繰り返すものですが、装飾音型の多彩で自在な変化が美しいです。
しかし身につまされるタイトルじゃな。
「わが青春はすでに過ぎ去り」による変奏曲 SwWV 324
ちなみにチェンバロで弾くとこうなります。
「なるほど昔の音楽だ、たしかに過ぎ去ってるね!」というひなびた雰囲気を満喫できて、これはこれで素敵。
しかしまあ、スウェーリンクをグランド・ピアノで弾いてこんなに美しくなるとは思いませんでした。
ピアノの表現力ってすごいなあ、さすがは楽器の王。
そして400年たってもみずみずしさを失わないスウェーリンクの音楽の素晴らしさ。
ゴージャスな響きは、たぶん作曲者が意図したものとは違っているわけですが、有無を言わさぬ説得力があります。
(2024.11.03.)