キース・ジャレット/サンベア・コンサート(6枚組)



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1976年のキース・ジャレット・ソロピアノ・ツアーin JAPN を収録したレコード10枚組、「サンベア・コンサート」を知ったのは1978年のLP発売時。
当時音楽好きの間でかなり話題になってました。
といっても高校生の分際で実際に買う物好き(というか金持ち)は、少なくとも私の周りにはおらず、「10枚組!へえ〜」と皆で言い合ったくらい。
たしか3万円くらいしましたしね。
その後「ケルン・コンサート」(1975)は大学生の時に友達に借りて聴きましたが、
延々数十分続くピアノの即興演奏に、正直「なんじゃあこりゃあ」と思った田舎者の私です。
大人になって、素晴らしさが分かってきましたけど。

さて2022年の末にタワーレコードのサイトをボーッと眺めていると、「サンベア・コンサート」がSACDハイブリッドで発売されるという記事が。
5つの都市(京都、大阪、名古屋、東京、札幌)のコンサートを収めたものに「アンコール集」がついてCD6枚組。

 「ふーん」

と思いながら、どこでどう魔がさしたのか気づけば「自分へのクリスマスプレゼント・・・」などとアブナイ呪文をつぶやきながら注文しておりました!

このたび全部聴き終えましたが、いやー素晴らしいですね。
「ケルン・コンサート」と同じくひたすらピアノの即興演奏が繰り広げられるわけですが、聴き飽きません。

驚くのがひとつとして同じ内容がないこと。
前回弾いて「こいつはいい!」と思ったフレーズがあれば、次回も使いたくなるのが人情ですが、使いまわしはありません。
「どこかで聴いたことがあるメロディ」も出てきません。
並のピアニストならついスタンダード・ナンバーを引用したくなると思うのですが、どこまでも完全にオリジナルです。

まあ、延々同じ音型を繰り返す部分とか(次の展開を考えている?)、ちょっと間延びする箇所がないわけではありませんが、
いつの間にか景色は変わり、また新しい響きの世界が万華鏡のように繰り広げられます。

 Tokyo, November 14, 1976 (Part1)
 

ほの暗く甘い響き、活発な踊り、サラサラとした抒情、ときに激しく、ときに妖しく、ときにゆらゆらと彷徨し、
あっちへ寄り道したりこっちで立ち止まったりしつつ、リリカルな旋律のかけらを拾い上げては戯れるキース。
しんとした空気は緊張感をはらみ、殺気すら漂うほどで、咳払いひとつ聞こえません。
ライブ収録されることは事前にアナウンスされていたはずで、生で聴いた方々は生きた心地がしなかったんじゃないかと思いますが、
こうしてCDで聴くぶんにはなんと気楽なことでしょう、申し訳ない気がするほどです。
それでも全部聴き終えたときは、禊を終えたかのような一種の肉体的清涼感を覚えました。

(2023.01.09.)


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