中澤宗幸/ストラディヴァリウスの真実と嘘
(世界文化社 2011年)
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趣味というか下手の横好きでチェロを弾いております。
現在練習中の曲は、バッハ:無伴奏チェロ組曲第2番 プレリュード。
深い憂愁にいろどられたドラマティックな音楽、
またろくに弾けませんが、練習するほどに「一幕の悲劇のような曲だ・・・」と感動に震えます。
でも弾いていると家族には「怪しい呪文のようだ」と言われます。
・・・・・まあ、褒め言葉ととっておきましょう(←それは無理)。
楽器は、「ス・・・・」を弾いてます、ええ、あの「ス・・・・」なんです。
日本が誇る弦楽器メーカー、スズキヴァイオリンの製品です!
名器「スズキでありんす」と呼んでおります(←花魁かい)。
さて、弦楽器の名器と言えばもちろん「ストラディヴァリウス」。
1挺ウン億円するんですよね、たしか。
どうしてそんなに高いのか、他の楽器と何がどう違うのか、ニセモノけっこう出回ってるんじゃないの、どうやって見分けるのなどなど、
ストラディヴァリウスをめぐるいろいろなウンチク、およびストラディヴァリの人物と楽器の歴史について、
日本を代表するヴァイオリン・ドクター(修復家・鑑定家)である著者が存分に筆をふるった本がこれです。
中澤宗幸/ストラディヴァリウスの真実と嘘
平易な語り口で素人にもわかりやすいので、弦楽器に興味のない人も、それなりに面白く読めるのでは。
ところでアントニオ・ストラディヴァリという人は驚くほど長生きだったそうです。
1644年ごろに生まれ、最後の作品のラベルが1737年なので、少なくとも93歳まで生きたと考えられています。 し、信じられん、何かの間違いでは?
生涯に生みだした楽器の数は2000とも3000とも言われ、そのうち現存するのは約600挺。
またこの本には、楽器に魅入られ翻弄される人々も描かれています。
とくに印象に残ったのは19世紀初頭のヴァイオリン・コレクター、ルイジ・タリシオ。
貧しい農民の家に生まれ、見よう見まねでヴァイオリンを弾いていたタリシオは、やがてヴァイオリン収集に異常な関心を示すように。
大工仕事で日銭を稼ぎながらイタリア中を旅して回っては、古い修道院や教会、貴族の館に眠っていたヴァイオリンを1000以上も買い集め、
そのなかにストラディヴァリやヴァルネリやアマティの名器を見つけます。
タリシオは集めた楽器を持ってパリに行き、ヴァイオリン職人のヴィヨームと組んで商売を始めます。
おりしもオールド・ヴァイオリンの値段が上がり始めた頃で、みごと築いた巨万の富。
しかし莫大なお金を手にしてもヴァイオリンの収集以外には興味を示さず、
倉庫のような殺風景な家で、200挺以上のヴァイオリンの名器に囲まれて孤独に世を去ったと言います。
まさにヴァイオリン馬鹿一代。
妙にすがすがしい人生です。
ストラディヴァリの最高傑作といわれる「メシア」(1716年作)を発見し、価値を見抜いたのもタリシオ。
現在「メシア」はロンドンのアシュモリアン美術館に展示されていて、演奏することはできないそうです。
この本、ヴァイオリニストである著者の奥様が4種類のストラディヴァリウスを弾き分けたCD(76分)がついて2000円+税。
音楽好きにはお買い得な一冊だと思います。
ちなみに4つの楽器の合計金額は25億円だそうです。
ただし私には4種類のストラディヴァリウス、まったく聴き分けられませんでした。
猫に小判、豚に真珠、木曽の耳にストラディヴァリウスなのでした。
(2011.11.15.)