塚田孝雄/ソクラテスの最後の晩餐
(筑摩書房・ちくまプリマーブックス149、2002年)



Amzon.co.jp : ソクラテスの最後の晩餐―古代ギリシャ細見


「古代ギリシャ」といえば、アテネ、スパルタ、パルテノン神殿、ミロのビーナスなどを誰でも連想するでしょう。
美しい古代文明のイメージがわいてきます。
ところで、古代ギリシャ人はどのような生活をしていたのでしょうか・・・?

この本は、ちょうどソクラテスが暮らしていたころのギリシャ(とくにアテネ)で、
普通の人々がどのように暮らしていたのかを、わかりやすく解説してくれる本です。
塩野七生さん風に言えば、「アテネ人の物語」とでも言うべき1冊。
題名は「ソクラテスの最後の晩餐」ですが、本当の主人公はアテネの名もない庶民たち。
文章が良くこなれていて、読みやすいです。 (塩野七生さんの本よりも読みやすい・・・!)
内容を少しご紹介・・・

第3章「アテネの結婚式」
当時の典型的中産階級の結婚式の様子、これがとても2500年前とは思えません。
式の前に花嫁は、少女時代に別れを告げるために、大切にしていたおもちゃや持ち物をアルテミス神殿に奉納。
品物はタンバリン、手まり、人形など。短い詩を添えることがあったようで、哀切な何編かが残っているとか。
当日は朝から忙しく、花嫁の家の玄関の扉はいくつもの花輪で飾られ、
花嫁は絹のドレスを着て、ヴェールで顔を隠したそうです。
結婚の宴は花嫁の家で行われ、そのあと新郎新婦は馬車に乗り新郎の家に向かい、新郎の両親にあいさつ。
(新郎の親は、新婦の家からひそかに一足早く戻って待っていなければいけない)
結婚後はたいてい親とは別居して、新しい家庭を築いたそうです。(家が狭かったかららしい)
・・・この章を読んでの私の感想は、「昔から親は大変だな〜!」です。

第6章「プラトンの学園」
プラトンが運営していた有名な学校、アカデミアでは、どのような教育が行われていたのか、
わかりやすく、楽しく述べられています。
・・・この章はとくに面白いです。 
  目を輝かせて入学してくる新入生。 プラトン、アリストテレスなどそうそうたる教師陣。
  おまけに男女共学。 話を膨らませれば面白い小説が出来上がりそう。

第13章「オリュンピア競技」
当時の貧乏な一般市民にとって、名をあげる絶好のチャンスが、オリンピック
庶民でも優勝すれば莫大な賞金と名誉が手に入ります。
優秀な選手は各ポリスからの引き抜き合戦の対象となるので、高額の契約金をもらいながら、
あの町この町と転々とする選手もいたそうで、何のことはない当時からほとんどプロ化していたんですね。
・・・当時のオリンピックは参加するのも観るのも男だけ、女人禁制だったとは知りませんでした。
  選手は全裸で戦ったそうなので、やむを得なかったのでしょうか?

第15章「ソクラテス裁判」・第16章「ソクラテス最後の一日」
ソクラテスの裁判の模様が、まるで見てきたように再現されます。
ソクラテスがなぜ裁判にかけられ処刑されたのかについても、いきさつがきちんと述べられていて、初めて納得できました。
ここで述べられるアテネの裁判のシステムは、きわめて公平で民主的です。
にもかかわらずソクラテスが死刑を宣告されたのは、かつて彼の弟子だった人物が政治家となり、
政敵をたくさん殺したあげくに自分も失脚して殺される事件があったためで、
どうやらソクラテスはそのとばっちりを受けたようです。
そして、ソクラテスが処刑の日をどのように過ごし、毒杯をあおいだのかは、
プラトンの「対話編」に詳しく書かれているけれど、あれはソクラテスをずいぶん美化しているそうで、
著者なりに現代の研究成果を踏まえて、ソクラテスの最後の日を描写します。
・・・ソクラテスのもとには友人や弟子からたくさんの差し入れがあり、
  おそらく牢獄の中で宴会が開かれたであろう記述は、なんだか楽しくなりますね。
  著者はメニューと、ワインの銘柄まで推測してます。
  あと意外なことにソクラテスの妻が悪妻だったという説に、著者は事実無根と反論しています。

著者の塚田孝雄氏は、西洋古代史、とくにギリシャ・ローマの専門家のようですね。
専門的な難しいことを、わかりやすく、やさしく書く能力にたけている人だと思いました。
(02.9.27.記)



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