テリー・ライリー/平和のためのサロメ・ダンス(1985〜86)
(クロノス・カルテット)

Amazon : Salome Dances for Peace
アメリカの作曲家テリー・ライリー(1935〜)は、2020年から日本で暮らしています。
2020年9月の「佐渡島芸術祭」に参加予定だったライリーは、現地視察のために同年2月に来日。
しかし滞在中ににコロナ・パンデミックが発生、ロックダウンのため帰国できなくなります。
日本の文化や風土を気に入っていたライリーは、そのまま滞在を延長。
山梨県に居を構え、作曲家/演奏家として旺盛に活動を続けます。
2025年に90歳を迎えましたが、まだまだお元気そうでなによりです。
「平和のためのサロメ・ダンス」は1985年から86年にかけてクロノス・カルテットのために書かれた弦楽四重奏曲で、ライリーの代表作のひとつ。
5つの部分に分かれた全23楽章・2時間の大作で、ストーリー仕立てになっています。
グレート・スピリット(インディアンの主神)は、権力者たちの愚かな行為に目を止められた。
彼は、予言者ヨハネの首を得るためにその踊りでヘロデ王を魅了した王女サロメを2000年の眠りから目覚めさせた。
女性としての魅惑的な力と、シャーマンの霊力を兼ね備えた女神サロメは仲間の狼男を従え、
地球を支配する二つの権力、クレート・ホワイト・ファザーとベア・ファザーをダンスで魅了する。
権力者たちはサロメの愛に包まれ、エクスタシーのうちに邪悪な心は消え、世界に平和がもたらされる。
1960〜70年代のフラワー・ムーブメントやヒッピー・カルチャーを思わせる、ラブ&ピースで能天気なストーリー。
クレート・ホワイト・ファザーとベア・ファザーは、それぞれアメリカとロシア(当時はソ連)を意味してるんでしょうね。
2025年現在のウクライナやガザの状況を思うに、こんなんで平和が訪れたら苦労はないわなと突っ込みたくなりますが、それは別にライリーの責任ではありません。
音楽としてはとっても刺激的で創意工夫に満ちた傑作です。
第1部「グレート・スピリットへのアンセム」より第8曲「狼男、月下に乱舞」
(こりゃロックじゃねえか! 思わずヘドバンしたくなります)
テリー・ライリーといえばミニマル・ミュージックのイメージがありますが、「平和のためのサロメ・ダンス」は、
ミニマルでとったダシの中にロック、ポップス、ジャズ、民族音楽、現代音楽などをぶち込んでよ〜くかき混ぜてごった煮にした、陽気な闇鍋のような曲。
響きはポップで解放的、ストーリー仕立てと言いながら描写音楽的要素はあまりないので、
ストーリーは気にせずに絶対音楽として聴けばいいんじゃないかな。
第2部「戦いの悪魔たちからの勝利」より第6曲「平和への開眼」
(声明を思わせるエスニックなコラール)
テリー・ライリー自身、
「私はミニマル・ミュージックとかサイケデリック・ミュージックといった型に嵌まりたくなかったし、
そう感じることが、どんな方向にでも向かえる完全な自由を得るための術だと思います」
と述べています。
第3部「ギフト」より 第2曲「モンゴルの風」
(ホーミーっぽい響きが確かにモンゴルを思わせます)
テリー・ライリー(2015年ごろ)
いい顔してますね〜。
80歳くらいだと思いますが、こういう感じで年を取れたら最高ですね。
第5部「グッド・メディシン・ダンス」
(カントリー・ミュージックのような陽気なフィナーレ)
CDはクロノス・カルテットによるこの録音しかないようで、残念ながら2025年現在廃盤ですが、YouTubeで全曲聴くことができます。
1990年のクロノス・カルテット。
どう見ても弦楽四重奏団というよりはパンクロック・バンドです。

(2025.11.03.)