伊坂幸太郎/ラッシュライフ
(新潮社 2002年)



Amazon.co.jp : ラッシュライフ (新潮文庫)

<ストーリー>
 強引な手法で日本一の画商にのし上がった男・戸田
 独自の美学を持つストイックな空き巣・黒澤
 新興宗教の信者で絵のうまい学生・河原崎
 不倫相手の妻の殺害を計画している女医・京子
 リストラされ再就職を目指すも、40社連続不採用という現実に打ちのめされる中年男・豊田
 ・・・さまざまな人生と生活が、微妙に重なり合い、すれ違いながら、
 一枚のタペストリーのような物語を形づくります。



「重力ピエロ」で昨年の直木賞にもノミネートされた伊坂幸太郎
個人的にはこの作品のほうが面白かったです。
並行して語られる5つの物語が、徐々につながるかと思えば、ひとつの物語に収束するのではなく、
また各々の物語に分散・解体されてゆきます。
いわゆる「袖振り合うも他生の縁」を遊び心たっぷりに描いた小説です。

それぞれのセクションはうまく書き分けられていて、何本もの映画を同時に見ているよう。
例えば泥棒・黒澤の物語はもろにハードボイルド(原寮を思い出させます)
殺人計画女医・京子は、ほとんど新本格ミステリであると同時にかなり笑えますし、(島田荘司っぽい)
失業者・豊田のセクションは、ちょっと恥ずかしくなるほどの人生の応援歌です(重松清?)
新興宗教信者・河原崎の話はスプラッタ・ホラー入ってます(ホラー作家あまり知りません・・・)
画商の戸田のみ、画商だけにやや絵空事というか(おい、座布団ぜんぶ持ってけ)、人物像がうまくつかめませんでした。

なお、上に上げた5人の登場人物のうちで、最後までにお互いに知り合うのは2名ひと組のみ。
多くは単にすれ違うだけにもかかわらず、お互いの人生に大きな影響を及ぼしあいます。
巧みな構成に、ただただ感心。 テクニシャンですなあ。

「新潮ミステリー倶楽部」として刊行されたこの作品ですが、ミステリー性はかなり希薄。
「悪者」は最後でそれなりの報いを受け、「善玉」には希望が与えられる、
健全な娯楽小説として気軽に読むべき一冊です。

(03.10.18.記)

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