D. L. ロビンズ/鼠たちの戦争(1999)
(新潮文庫 2001年)



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<ストーリー>
 1942年、ボルガ河沿いの工業都市スターリングラードを舞台に、
ドイツ軍とソ連軍が死闘を展開しました。
 いわゆる
「スターリングラード攻防戦」です。
 「兎」のあだ名を持つソ連の狙撃手・
ザイツェフは、
廃墟と化した都市の瓦礫に潜み、多くのドイツ兵を仕留めます。
 一方、ソ連の新聞で「兎」の存在を知ったドイツ側は、ザイツェフを倒すために、
 天才狙撃手とうたわれる、射撃学校校長・
トルヴァルト大佐を送り込みます。



史実にほぼ忠実に書かれた戦争小説。 「スターリングラード」というタイトルの映画もありました(私は未見)

この手の小説のお約束として、戦争の悲惨さ・無慈悲さもたっぷりと描いてはおりますが、
本書の「売り」は、なんといってもスナイパー(狙撃手)たちの生態を、リアリティたっぷりに描きあげたこと。
さて「スナイパー」といえば、反射的に「ゴルゴ13!」と答えるのが、正しい日本のオトナ。
でもこの本読んだら変わります。 ザイツェフのほうがすごいかも!
「ええい、ゴルゴよ、頭が薄い、じゃなかった頭が高い!」とタンカ切りたくなります(←絶対撃ち殺されるな)

ザイツェフはシベリア生まれの猟師あがり、一方のトルヴァルトは貴族の生まれでドイツ射撃学校校長。
それぞれの流儀で相手を仕留めるべく、虚々実々の駆け引きが展開されます。
何時間でも瓦礫の中にじっと身をひそめ、敵が姿を現した瞬間、射程350mの銃で一発、
60秒様子を見たあとすぐに移動するのがザイツェフの流儀。
「一分たったら移動する。それが狙撃手が生き残るために守らなければならない第一のルールだ。
 引き金を引いたら、ただちに立ち去れ」
(上巻20ページ)
しかしトルヴァルトの流儀はまた違っています。 このあたりは読んでのお楽しみということで。

圧倒的迫力のこのストーリー、ほとんど史実そのままというのが、凄いというか、重いです。
ザイツェフの教え子としてめきめき「才能」を発揮し、
やがて彼と恋に落ちる女性狙撃手・ターニャもまた、実在の人物とは。
ぐいぐい読ませるリーダビリティーの高さは、ドキュメンタリーではなくあくまで小説仕立てにした作者の作戦勝ちか。
上下2巻本ながら長さを感じさせません。

ところで私、スターリングラード攻防戦という言葉は知っていたのですが、
スターリングラードはレニングラード(今のサンクトペテルブルグ)のことかと思っておりました。
実は全く別の都市でした。スターリングラードは現在ヴォルゴグラードと呼ばれているそうです。

(04.4.25.記)

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