西澤保彦「聯愁殺」(原書房 2002年)
貫井徳郎「プリズム」
(創元推理文庫 2003年)

聯愁殺 (ミステリー・リーグ) プリズム (創元推理文庫)


たまたま続けて読んだ2冊の本格ミステリ。
どちらもイギリス・ミステリ黄金期の傑作、アントニイ・バークリー「毒入りチョコレート事件」へのオマージュ的な作品でした。

「毒入りチョコレート事件」(1929)は、贈られたチョコレートに仕込まれていた毒で、ある婦人が死んだ事件について、
複数の(確か6人だったか?)探偵が一同に会して推理合戦を展開。
ひとりが提出した推理を別のひとりが否定するという形で進んでゆき、さて最後に明らかになる真相は・・・? という作品 (創元推理文庫で読めます)。
こういうパターンを「多重解決もの」と言うそうです。
もちろん最終的に解決はひとつに確定するのですが、それすらも作者が「まあ今回の真相は一応こういうことで」
と適当に決めたんじゃないかと思うくらい、どの仮説も魅力的ですし、そもそもそうでなくっちゃ面白くない。


さて、西澤保彦「聯愁殺」(れんしゅうさつ)。
(どういう意味なんでしょうかこのタイトル。 国語辞典のほこりを払ってみたのですが結局良くわかりませんでした)
サイコな連続殺人犯に襲われ、からくも命拾いしたOL。
どうして自分が狙われたのかさっぱりわからない彼女は、アマチュア探偵の集会に出席してその理由を推理してもらうことに。
肝心の犯人は、彼女の殺害に失敗して以来、行方が知れません(どこかで自殺?)
探偵たちはそれまでの被害者(医師、小学生、老人)とこのOLをつなぐミッシング・リングについて様々な推理を披露してゆきます。
最後に至って明かされる真相はまさに驚天動地。
そして戦慄の最終章へ。この章は無くても良かったんじゃという気もしなくもないですが、しかしこの結末あってこその西澤保彦なのでしょう。 もんのすごい破壊力です。
読めば忘れられなくなること必定。

つぎに貫井徳郎「プリズム」
児童たちからは慕われ、同僚の信頼も篤かった若い女教師が自宅で殺害されます。
関係者達は、それぞれの視点から独自の推理を繰り広げてゆきます。
第1章では、被害者の教え子だった小学生達が、こまっしゃくれた少年少女探偵団ぶりを発揮。
第2章では被害者の同僚教師、第3章ではもと恋人、第4章では今の恋人(というか不倫相手)がそれぞれ探偵役をつとめます。
各探偵は、みな自分なりの真相に到達するのですが、驚かされるのは最終的に事件の真相が明らかにされないことです (とってもネタバレです。どうしてもの方は反転してください)。
芥川龍之介「藪の中」のミステリ版という感が (充分ネタバレになっとるかも)。
読後に、もやもやしたものが残るのですが、読んでる間はとても面白かったし、読み終わってからもいろいろ考えてしまいます。
この作品ではチョコレートが重要な小道具として使われていて、「毒チョコ」へのオマージュであることがあからさまなほど。
しかしやっぱり「警察は何しとるんじゃ」という気がしてしょうがないし、
誰がチョコレートに睡眠薬を入れたのかとか、警察に通報したのは結局誰なのよとか、よくわからないことも多いので、
ここは美男子の仁科刑事が探偵役となる第5章が欲しいところです(これからでも書いてもらえませんかねえ)


恐怖の世界への入り口がぱっくりと口を開ける西澤保彦「聯愁殺」は、日本ミステリ小説史に残る傑作だと思います。、
上品で端正な構成美の貫井徳郎「プリズム」は、実験的な試みに果敢に挑んだ佳作です。

どちらも現代日本の本格ミステリを代表する逸品でした。

(03.5.23.記)


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