丸山健二/落雷の旅路
(文藝春秋 2006年)



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自由なれど孤独に

ガーン!!

いまのは、私がこの本で頭を殴られた音です。
いやいや、女房殿を怒らせてしまって、本で張り倒されたのではありません。
読んで、頭を殴られたようなショックを受けたということです。
なんという、厳しくもストイックな小説世界。
最近、軽い本しか読んでいなかったもので、かなりの衝撃でした。

十篇からなる短編集です。 
主人公はどれもドロップアウトした、またはしかけている状態にもかかわらず、高いプライドを保っているのが共通点。

最初の「星夜」から、いきなり大爆発です。
厄年を迎えた孤独な男が、壮麗な星空に誘われて街をさまよい歩きます。
山岳博物館に飼われているイヌワシを開放してやったのを皮切りに、しだいに破壊的な衝動に身を任せてゆき、
ついに究極の自由に向かって飛翔・・・。

冷静に考えれば狂気の沙汰ですが、主人公に共感し納得してしまうのは、文章力のなせるわざ。
手が切れそうなほど研ぎ澄まされた文章は、けっして読みやすくはなく、随所にごつごつとしたひっかかりが。
しかしそれさえもおそらくは仕様。
辛口&ハードボイルドな世界を展開するにはふさわしい文体なのかな。

この「星夜」があまりにも強烈ですが、ほかにも
強盗殺人の罪で死刑になった弟の遺骨を抱いて途方にくれる女とその母を描いた「海鳴り、遥か」
野性のイノシシが、小さかったころに心を通わせた人間の少女を懐かしむ「牙に蛍」
断崖で団子屋を営む老女と、自殺青年の幽霊の静かな戦いを描く、ホラーテイストの「波も光も」
などが、特に面白かったです。

生老病死を冷徹かつ虚無的に見つめた、厳しい作品ぞろい。
登場人物にほとんど名前を与えていないのも特徴。
「男は〜」「老女は〜」といった感じなので、突き放しているというか、じつにハードボイルドです。

ラストの2編「対岸の日溜まり」「落雷の旅路」は、この本の結論的作品。
作者が本当に言いたかったことは、この2編に集約されているのではないかと。
観念的・寓意的で、ややわかりにくいので、ラストに持ってきたのでしょうか。
色即是空・人生虚仮的ニヒリズムを描きながら、それを乗り越えて生きることを賛美しているのではないかな〜(ちょっと自信ない)

小説読んで、愛だの恋だの笑えるだの泣けるだの言うのも、決して悪くはないけれど、
時にはこういう「生き方を問う」ような小説も良いものです。
ただ後で、軽くておちゃらけたものを読んでバランスをとらないと、
眉間にたてジワができてしまいそうです。

丸山健二は、1966年、23歳で芥川賞を受賞した作家。
2004年に綿谷りさが19歳で受賞するまで、最年少記録だったそうです。

(07.2.19.)


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