ピツエッティ/ヴァイオリン・ソナタ



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かねてから愛聴しているNHK−FM「クラシックの迷宮」(土曜夜放送)。
クラシック・オタク御用達の超マニアックでディープな底なし沼番組、たまりません。
パーソナリティー片山杜秀氏の馬鹿丁寧なトークが最初は気持ち悪いのでございますが、慣れると癖になってまいります。(←なってる)

先日の放送では、20世紀イタリアの作曲家イルデブランド・ピツエッティ(1880〜1968)とアルフレッド・カゼッラが取り上げられました。
いったい誰が聴くんでしょうね、こんなマイナーな作曲家? (あ、私か)
じつは私、このあたりの作曲家がけっこう好きでございまして、
とくにピツエッティヴァイオリン・ソナタは、若き日の愛読書・音楽之友社「最新名曲解説全集」に取り上げられていることもあり、
かねてよりよく聴く曲でございます。
この曲が作られたのは1919年、今年は作曲から100周年ということで、めでたく「クラシックの迷宮」に取り上げられた次第。

第1楽章テンペストーソ(嵐のように)と記された、ソナタ形式の音楽。
冒頭ピアノに登場する音型から、嵐の前のような不穏な空気を孕み、やがて何かに怒っているような第一主題がはっきり姿を現します。
0:36からヴァイオリンが哀歌のようなメロディで参加、これが第二主題でしょうか。
特徴的なのは、第一主題は常にピアノで奏でられ、第二主題は常にヴァイオリンで歌われること。
楽章を通して、楽器間で主題が交換されることはありません。
深い意味があるかどうかはわかりませんが、単なる作曲技法上の試みとしても、なかなか興味深うございます。
2分42秒展開部となり、ピアノに讃美歌のような新しい主題が穏やかに提示され、ヴァイオリンも優しい歌でそれに答えます。
これらが発展してゆくと、4:50〜ピアノに第一主題が登場、ヴァイオリンも第二主題の音型でそれに絡み、クライマックスへ。
しかしそれも永くは続かず静まってゆき、再び祈りの歌となったあと、8:07〜再現部となり両主題が再現されます。
緊張感あふれる、じつに劇的な楽章であると存じます。

 第1楽章
 

第2楽章「無辜なる人々への祈り」と名付けられたモルト・ラルゴ
前年に終結した第一次世界大戦の犠牲者に捧げられた音楽です。
グレゴリオ聖歌に範をとったシンプルな祈りの歌が連綿と流れてゆくのでございます。

 第2楽章
 

第3楽章ヴィーヴォ・エ・フレスコ、民謡風で素朴な主題を軸にした自由なロンド。
前の二つの楽章からガラリと変わり、すがすがしい明るさであふれております。
跳ねるような序奏に続き、0:41から登場するロンド主題の可憐な美しさが大好きな私であります。
戦争の苦しみからの解放を謳歌しているかのようでございます。

 第3楽章
 


この曲、「20世紀ヴァイオリン・ソナタの傑作」として、1920〜30年代には世界中で盛んに演奏されたそうでございます。
ところが第二次大戦後はさっぱり・・・。

理由はピツエッティがムッソリーニのファシスト党の支持者であったため。
1925年には「ファシスト知識人宣言」というものに名を連ねたそうであります。
そのため戦後はいわば「干されて」しまったわけですね(日本やドイツでも似たような境遇に追い込まれた芸術家は少なくありません)。
作曲者はどうであれ、曲そのものにに罪はないと思います・・・・・・とっても良い曲です。

なお片山杜秀氏の専門は政治思想史、本職は慶應義塾大学法学部教授であらせられます。
なので「クラシックの迷宮」でも、音楽を歴史や政治と関連付けて解説されることが多く、
しばしば目からウロコ、蒙を啓かれるのであります。
さあ、みなさまも過激にディープで超マニアックなクラシックの迷宮を彷徨おうではありませんか(勝手に番宣)。

(2019.01.18.)

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