皆川博子/海賊女王
(光文社 2013年)
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<ストーリー>
十六世紀。スコットランドの高地に牧童として生まれたアラン・ジョスリンは、
十七歳で戦士集団に加わり、アイルランドに渡る。
そこで出会ったのは、海賊一家オマリーの猛々しくも魅力的な男たちと、
赤い縮れ毛を短く切った活発な少女グローニャ。
その後、隣国イングランドではグローニャと同年生まれのエリザベス一世が即位、アイルランドへの属国支配を強めてくる。
しかしオマリー家は服従を拒み、自らのクラン(一族)を守るために戦うことを選ぶ。
いつしかグローニャは父に代わり、一家を率いて戦場を駆け巡る。
そして彼女のかたわらには常に、忠実な従者アランの姿が・・・。
毅然としてたくましく妖艶な海賊女王と、彼女の従者として身も心も捧げた男の波乱万丈の生涯を描く大長編。
現役最長老作家の呼び名も高い皆川博子の最新長編は「海賊女王」。
16世紀アイルランドに実在した女海賊グラニュエル・オマリー(グローニャ)の疾風怒濤・波乱万丈・荒事上等な生涯を描き切った上下巻です。
とてもじゃないけど83歳の婆さん (失礼!)女性が書いた小説とは信じられません。
なんという荒々しく猛々しい作品!
これっぽっちも守りに入っていません!
元気いっぱい、行間からエネルギーが、ページからオーラがほとばしり出ています。
一気読みしちゃったわけですが、単なるイケイケドンドンの海賊喧嘩物語でもありません。
奇しくも同い年であるグローニャとエリザベス一世を対比することで物語には奥行きが。
グローニャもイングランド側も権謀術数を巡らせ、なんと後半ではふたりの「女王」が、じかに会いまみえる場面もあります。
終結に近づくと、前半に張り巡らされていた伏線が次々に発動、
「え、これってこういうことだったの?」
「ええ〜、あの人は実はっ!?」
と、巧みな仕掛けに七転八倒させられます。
さすがは超一流&最高齢ミステリ作家、読者を翻弄するテクニックは自由自在・芸術至芸の域。
じつは皆川博子大先生の作品、タンビーでインビーな雰囲気がちょっとアレでして、今まであまりのめり込めなかったのですが、
この作品はそういう面があまりなくて、非常に読みやすかったです。
骨太な筆致とスピード感ある文体で、少女時代から老境に至るまでの「海賊女王」の生涯を見事に彫琢。
過酷な運命に揺さぶられながら、どこまでも彼女に忠実なアランもいいぞ。
まあ海賊ですから、殺したり奪ったり撃ったり沈めたり、相当あこぎなこともやりますが、
日本でも当時は戦国時代真っ只中、洋の東西を問わずそういう時代だったんでしょうかね。
そしてアイルランドがイングランドに到底敵わなかったことは歴史的事実、「滅びの美学」を歌い上げるラストにはぐっときます。
女海賊といえば、2014本屋大賞を受賞した和田竜「村上海賊の娘」という小説も、
舞台は日本ですがやはり16世紀後半のお話で、ほぼ同時期の刊行ですが(これも上下巻)、
両方読んだものとして、小さな声で言わせていただきます。
私は「海賊女王」のほうが面白かったです!(←小さくない!)
(2014.8.28.)