テリー・ヘイズ/ピルグリム(1〜3)
(山中朝晶・訳 ハヤカワ文庫 2014)

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アメリカの諜報組織に属する諜報員たちを監視監督する極秘機関があった。
「私」は非情の掟に殉じ、機関のトップへ上り詰め、祖国アメリカを守るため力を尽くしているつもりだった。
あの9月11日までは・・・。
引退した「私」を諜報の世界へと引き戻したのは「サラセン」と呼ばれる一人のテロリストだった。
「サラセン」による戦慄のテロ計画に対峙するべく、アメリカは「名前のない男」にすべてを託した。


「エスピオナージュ」の復活!


気のせいか、最近面白いエンタメ小説がつぎつぎ出版されるような気が。
年末のミステリ・ランキング目当てで、出版社は秋に面白い本を出してくる、という噂はやはり本当なのでしょうか。
一読者としては、面白本の波状攻撃に「リンダ困っちゃう」状態。
財布のひももついつい緩み、あとで後悔。
でも面白かったら嬉しいじゃないかい。
懲りずにまた買ってしまうがまあいいかい。

さて最近読んだ中で最強の面白本だったのが、

 テリー・ヘイズ/ピルグリム(全3冊)

かつて、「エスピオナージュ」というジャンルがありました。
料理の名前じゃありません、「スパイ小説」のことです。
東西冷戦華やかなりし頃(?)には、ジョン・ル・カレ、ブライアン・フリーマントルなどの大御所が活躍、
「諜報員」なんて言葉も読者におなじみだったものです。

しかし冷戦が終わってからはさっぱり・・・・・・と思ったらこの作品、まさしく由緒正しい「エスピオナージュ」ではないですか。
21世紀のスパイの敵は共産主義ではなく、テロリズム。
万全の注意を払って身分を偽り、単身敵地に潜入。
起こりうるあらゆる状況に対処するべく、二重三重に策を巡らせながら、テロリストの正体とその目的を探ってゆく・・・。

テロリストに裏をかかれたり、逆にこちらから罠をかけたり、一歩一歩敵の正体に迫ってゆく「私」。
天才的頭脳と悪魔のような残忍さで、恐ろしいテロ計画を実現に近づけてゆく「サラセン」。
二者の息詰まる知的攻防がサスペンスたっぷりに描かれ、全く長さを感じさせません。
映画のシナリオライター出身の作者ゆえか、複雑なストーリーなのに読みやすく、すいすい読み進められます。

日本マニアのコンピュータ・オタクが重要な役割を果たすところなんか、いかにも21世紀。
まあ最後の対決のあたりは、「そこまでうまくはいかんだろ!」と突っ込みたくなりますが、とにかく面白いこと最上級。
そしてラストで「真賀田四季ですかあなたは!」と言いたくなるような女ラスボスがついにヴェールを脱ぎ、なにやら余韻を残した終わりかた。
ひょっとして続きがあるのかな、楽しみです。

(2014.11.1.)

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